廻るは歌、そして……【前編】
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それは最早、誰かの記憶の中にしか存在しない物語。
気が遠くなる程の過去。昔と呼ぶことさえ憚られる程に遥かな昔、異なる世界で起きた出来事。世界の裏側に存在する、小さな小さな歌の話だ。
りぃん、りぃんと鈴が鳴る。その歌声が祝福するのは存在する記憶か、消失した夢想か。今となっては、それを知ることなど誰にもできない。
遥か太古より響き続けるその歌は喪失を嘆き続けているようでもありながら、永遠の中で忘れ去られた何者かの名前を呼んでいるようでもある。
――――けれど、本当の意味は誰も知らない。
◇
歌は、守護者に守られていた。この歌を求め世界の裏へ渡る者は数え切れぬ程居たが、その悉くが守護者によって叩き伏せられている。
守護者は名も無き人形だった。ただ其処に在り、歌声を守り続けるだけの存在。「彼」や「彼女」の区別さえ、それには存在していない。
ある日、守護者の元を一人の少女が訪れた。
歌声を狙う者。そう判断した守護者が刃を構えた時、少女は静かに立ち止まる。
「だれか、いるの?」
少女は、目が見えていなかった。暗闇の中、聞こえくる歌に惹かれ、迷い込んだだけの少女。そんな彼女に、守護者は振るう刃を持たなかった。
少女はただ座し、歌に耳を傾ける。守護者は呆然と立ち尽くし、少女の姿を眺め続ける。
その関係性は奇妙ながら、互いに居心地の悪さを感じることはない。恐らくは、互いにとって互いが空気のような存在であったからだろう。
◇
互いに相手を見ない生活が半年程続いたある日、少女が不意に口を開いた。
「あなたは、ずっとここにいるの?」
守護者には、その問いの意味が理解できなかった。そもそも他者と言葉を交わしたことさえ無いのだから、ある意味では理解以前の問題であるとも言える。
特に返答も無く、静寂の時間が流れた。少女も特段会話を続けようとはせず、黙って歌に耳を傾ける。
その沈黙が、二人にとっての始まりだった。
〈続く〉




