絡繰のばね
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それは、古い日本家屋の一室で放置されていた。
薄汚れた、ぼろぼろの絡繰人形。壊れかけのそれが、同じく古い黒木の卓上でひとりでに動き続けている。
――――きり、きり、きり、きり。
木製の歯車が糸のようなばねを引っ張り、甲高く耳障りな音を立てる。
かたかたと卓上を動く姿は何処か不気味だ。雛人形やこけしにも通ずることだが、あの独特な顔立ちは薄暗い場所で見るとどうにも気味が悪い。
数年前、住人が逝去して以降この家は空き家である。
正確には親族などが少しの間住んでいたが、奇怪な不幸に度々見舞われ早々に引っ越して行った。それから十年近い時が経ち、人の寄り付かなくなったこの場所はただの廃墟に成り下がっている。
数日前の話だ。気紛れに夜の散歩をしている時、不意に何処からか呼び掛けるような声が聞こえたのは。
初めは空耳かと思ったが、散歩を繰り返すうち声は鮮明になっていった。そして今日、誘われるように私は声の出所であるこの家を訪れたのだ。
それから暫く探索し、居間と思しき場所でこの絡繰人形を見つけたと言う訳である。
見て回る限り、人の姿は見当たらなかった。どころかこの家には、この古びた人形と木机以外何も無いのだ。
……矢張り空耳か、或いは誰かの悪戯か。呆れながら目の前の絡繰人形に手を伸ばした瞬間、ずっと響いていた駆動音が突然その有り様を変えた。
き……り、き……ぃ。
かた……た、かか、た……
弱々しい音。誰が回したかは知らないが、事前に回されていたぜんまいが止まりかけているのだろう。
だから何、と言うものでも無い。特段気にも留めず絡繰人形を手に取った、次の瞬間。
――――ふっ、と全身が冷たくなる。思考が回らなくなって、意識が一気に黒ずんでいく。
消えゆく意識の中、微かに見えたのは持っていた絡繰人形がひとりでに手中を離れ、蜘蛛の巣のような人型の糸を解き、それを自らに組み込んでまたかたかたと動き始める姿。
…………そして、平凡な茶色をした木机の脚だった。




