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些細な不満

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 ――――きぃん、からから。


 そんな音を立て、アスファルトの上に小銭が落ちた。拾い上げると表面に細かい傷が付いていて、指で撫でるとざらりとした厭な感触がする。

 

「……はぁ」


 思わず、小さく溜め息を吐いた。

 今日は厄日かな、なんて密かに思う。と言うのも、今日は矢鱈とついていないのだ。

 ベニヤ板の表面とか、異性に挟まれた電車の席とか、埃でべたつく資料とか。そう言う「それぞれは少しもやっとするだけで、一々気にする程でもない些細な不満」を、今日一日で幾つも体験した。一つ一つは大したことでなくとも、累積すれば流石にげんなりもする。


 傷付いた小銭を手の中で遊ばせながら、それをポケットに捩じ込んだ。いっそ捨てたいぐらいだったが、金を無駄にするほど愚か者ではない。

 歩いていると、正面の植え込みから虫の羽音が聞こえて来た。見ると、大きな蜂が花の周りでぐるぐると飛び回っている。

 見たところ、雀蜂だろうか。蜜蜂や足長蜂よりも大きな体躯とつるりとしてややスマートな形状は、見るほど確かにそれらしい。


 私はまたかと思いながら後退り、即座に方向転換をした。蜜蜂なら毒が弱いからともかく、猛毒を持つ雀蜂には絶対に刺されたくない。

 当然と言うか、雀蜂は逃げれば追って来なかった。私は安心して歩き出し、煙草を一本口に咥える。


 火を点けると、ちりちりと言う音と共に甘く苦い匂いを漂わせる煙が空に流れ出した。

 周囲が咎めるような視線を向けてくるが、それも大して気にならない。と言うより苛々して、外の視線になど気を向ける余裕がないのだ。


 煙を吹かしながら、私は静かに空を見上げる。

 灰の煙は、灰の雲を呼び出していた。

 

「ああ、やっぱりついてないな」


 私は小さな声でそう溢し、携帯灰皿に火を点けたばかりの煙草を強引に押し込んだ。

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