駅舎にて
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「ねぇ、おじさん」
ある冬の夜。電車を待っていると、不意に隣席の客から声を掛けられた。
「ライター、持ってない?」
そう問いかけて来る青年は中学生、高く見積もってもせいぜい高校生くらいの見た目をしている。
「持ってないよ」
そう返答すると、青年は「何だよ、ちぇ」と呟いて、手に持っていた煙草の箱を乱暴に懐に突っ込んだ。
「そもそも君、何歳?駄目だよ、未成年が煙草なんて」
そう注意してみるも、青年は興味を失ったと言う雰囲気でスマホを弄るばかりで反応一つしない。
彼の態度に苛立っていると、遠くから電車の音が聞こえて来た。
私は席を立ち、電車が来るのを待つ。しかし、青年は立つそぶりを見せない。
「乗らないの?」
尋ねると、青年は答えた。
「乗らない」
なら何で駅に居るんだ、と思う私の思考を見透かしたように、青年は言葉を続ける。
「駅、好きなんだ。嫌なこととか全部忘れて、何処かに行けそうな気がしてさ……まぁ、行きたい場所がある訳じゃないんだけど」
そう語る彼の顔は何処か悲しげで、声を掛けることができなかった。そんな情けない私を救うかのようなタイミングで、駅に電車が到着する。
私は彼から目を逸らすように、到着した電車に乗り込もうとして――ふと、足を止めた。
「……ほら」
懐から取り出したものを投げると、青年はそれを慌てたようにキャッチして……クス、と笑った。
「……何だ、持ってんじゃん」
「あげるよ。じゃあね」
分かっている。この行為は、してはならないことなのだと。けれど、どうしても渡さずにはいられなかった。
「……あ」
扉が閉まる寸前、一片の雪が駅舎に落ちた。
落ちる雪と、昇る煙。相反する二つが、ほんの一瞬だけ暗い空を薄灰色に染めていく。
電車が走り始め、車窓の風景が移り変わってからもずっと――私の瞳には、その光景が映り続けていた。