思い出の味
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『今日、暇があれば飯でも行かないか』
その日、社食で昼飯を食べていると古い友人から突然にそんなメッセージが届いた。
『別に、構わないけど』
断る理由もなかったので、素直にそう返す。二分ほどして、彼から『じゃあ今夜七時、いつもの店で』と返信が来る。それに『了解』とだけ送って、昼飯に戻った。
彼と会うのは高校卒業以来だろうか。そう考えてみれば、随分と間が空いたものである。
彼は、正義感も責任感も強い男だった。
愚直で努力家、この世の全てが善悪で計れると思っているようなタイプ。その善性が面倒な時も時々はあったが、基本的には気持ちの良い好人物だった。
その人間性には、彼の出自も関係している。
彼の父方の家系は代々警察官なのだそうで、中でも彼は母親までもが元警察官のサラブレッドらしい。
そんな家で育てば、あんな人間性を持つのもある意味当然と言えるだろう。
高校卒業後、彼は当然のように警察学校へ入った。
同じ剣道部の友人同士だった私も誘いを受けたが、私はそれを拒んで普通の大学に入学した。喧嘩別れという訳でも無いが、彼との縁はそこで切れていたのだ。
だから正直、彼からのメッセージには驚いた。
五年も会っていない友人に突然連絡する、なんて初めは詐欺や勧誘を疑うものだと思う。私とて彼だったから疑いもしなかったが、別の誰かなら断っていた。
しかし、実際――どうして、急に連絡をしてきたのだろうか。それがどうにも気になって、その後半日はあまり仕事に集中できなかった。
◇
――午後七時。私は約束の店を訪れた。
高校時代、大会や練習試合の後に良く来た店。勝てば祝いに、負ければ慰めに。店は何も変わらないままそんな風景を写真のように記録していて、それが悲しいほどに懐かしく思えた。
懐かしさに浸っていると、不意に背後の扉が開く。
振り返ると、あまり変わらない彼の姿があった。が、私はその姿を見て酷い虚無感に襲われる。
「……久し振り」
そう口にする彼の笑顔は、記憶と変わらぬ正義感に満ちた精悍な顔のままだ。しかし瞳は濁り果て、疲れたようにどこか遠くを見つめている。
彼との晩飯は、昔と変わらずとても楽しかった。けれどその味は、思い出の中とは少し違うような気がした。




