大人ごっこ
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帰り道、気紛れに立ち寄った店で懐かしい菓子が売っているのを見つけた。
煙草を模したチョコ味の菓子。昔は何処にでも売っていたものだが、最近めっきり見なくなった品だ。
郷愁に駆られた私は、それを購入して店を出た。
一本取り出し、煙草のように口に咥える。瞬間、口内に優しい甘さと冷たい爽快感が心地良く広がった。
幼い頃、私はこの菓子を特別好いてはいなかった。味の話だけをすれば、寧ろ苦手だったかも知れない。
甘さの後に襲いかかる、ハッカのような爽快感。この感覚が子供には辛くて、食べる度にもやっとしていた。
それでも買い続けていたのはきっと、大人に憧れていたからなのだろう。
幼い子供の私にとって、煙草や酒と言うのは大人の象徴のようなものだった。
恐らくは、父がヘビースモーカーだったことも理由の一つだと思う。煙草を咥える父の横顔は、幼心にとても格好良く見えたものだ。
その物真似……のようなもの、をしたかったのかも知れない。煙草を吸う父の隣でこの菓子を咥えていた、幼い自分の姿を思い出す。
大人になった今、別に吸おうと思えば煙草を吸うこともできるのだ。けれど昔と違い、然程それに興味を持てなくなっている。
リスクを知ったから――と言うよりは、それが幼い頃に思っていたほど格好良いものでは無いと知ったからだろう。
敢えて言うなら、親や大人と言う未来への憧憬。そのような「子供らしさ」が、煙草や酒と言ったものに対する憧れを加速させていたのだと思う。
そんなことを考えていると、唾で細った菓子が口の中でぽきりと折れた。
私は折れた片割れも口の中に放り込み、力強く噛み砕く。大人の味だった筈の菓子だが、その瞬間は不思議と酷く幼い感じがした。




