文字から声へ
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初めて会ったその人は、想像していたよりもずっと恐ろしい見た目をしていた。
三ヶ月前。ぽつぽつとSNSに好きな本や作家の話を呟いていた私は、同じ趣味を持つ人に声を掛けられた。
その人は私より一つ年下の男性で、同じように趣味の話を誰に聞かせるでもなく呟いていた時、私の呟きがおすすめに流れて来たらしい。
初め、私は警戒した。
出会い厨、ヤリモクなんて言葉に印象を引っ張られていたのが原因である。だがそれ以前に、私は押しに強いタイプではないのでもし「そういう展開」になっても断れないだろうな、だから人とはあまり関わらないようにしよう――そう思っていたことが何よりの理由だった。
しかし一応と思って返信を見ると、その人物が私と同じレベルか或いはそれ以上に私の好きな本を読み込んでいることが伝わって来た。
細かな伏線の一つ一つに反応していたり、些細な心理描写からキャラの心情を深く考察していたり……そんな好意に満ちた言葉の羅列を見ていると、疑っている自分が馬鹿馬鹿しく思えてしまったのだ。
そのうち話してみたくなり、思わず返事をしてしまった――と言うのが、私と彼の始まりである。
そして先日、相手に「直接話したい」と切り出したのは他でもなく私自身だった。
文字で話すうち興味が湧いてしまったのだが、こうして積極的に人と会話しようと思うのはコミュ症な私にとって生まれて初めての経験である。
そして、今日。約束の場所に現れた彼は、私の想像を遥かに超えて男らしかった。
百八十センチをゆうに超えるであろう身長と、筋肉質で大きな体躯。顔立ちはお世辞にも整っているとは言えないが、崩れていると言うほどでもない。
悪人面、と言うのだろうか。目付きが矢鱈に鋭くて、ただ見られているだけでも睨め付けられているような気分に陥る。それなのに口調が奇妙に丁寧なのが、物凄く違和感だった。
そんな私の怯えが伝わってしまったのだろうか、彼は悲しげに少し俯く。
謝罪する彼に、私は必死で取り繕った。その応酬を暫く続けるうちにお互い何だか可笑しくなって、思わず二人で笑い合う。
その笑顔に、ほんの少しだけ胸がときめいたのは――まだ、内緒にしておくことにした。




