「◾️◾️」とは
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気付けば、見知らぬ部屋に居た。
周囲にあるものは振り子式の古い時計、後はちかちかと点滅する切れかけの蛍光灯だけで出口らしきものはどこにも見当たらない。
――――ジッ、ジジッ、ジジ………………
蛍光灯の音だけが部屋に響く。蛍光灯が点滅する度に部屋が一瞬真っ暗になって、何も見えなくなるのが奇妙な程に恐ろしく思えた。
俺は本来なら暗所を恐れる人間ではない。しかし未知の場所に居る不安や密室特有の滞留した空気の重苦しさが、普段以上に恐怖の感情を掻き立てているのだろう。
強い不安に崩れ落ちそうになった時、突然室内に人の声が響き渡った。
『――――初めまして、何処の誰とも知らない貴方』
変声機でも使っているのか、機械的でくぐもった声。けれど、間違いなく人の声だ。
「あんたは誰だ?何でこんなことを」
声に尋ねかけてみる。しかし声はこちらの言葉には一切回答せず、一方的に言葉を続けた。
『貴方に一つだけ質問をします。その問いに回答できればこの部屋から解放しますが、回答できなければ貴方はこの部屋を出られません』
……勝手なことを言う。しかし、この部屋を脱出する手段がないことも紛れもない事実だ。
挑戦するしかない――そう覚悟を決めるのとほぼ同時に、声が質問を投げて来る。
『「◾️◾️」とは、何でしょうか』
その質問は、ある意味想定外だった。
奇妙と言うより、平凡。恐らくは、それを疑問に思う人間などこの世に存在しないだろう。そう感じるほどその質問は当然の答えを持っていた。
「……「◾️◾️」」
俺は自然と、その答えを口にする。
『……成程、分かりました』
声がそう言うと同時に、部屋に自然光が差した。
室内の滞留した空気が外に流れるのが分かる。俺は急ぎ開いた壁へと近づき、部屋の外へと駆け出した。
その直前、先程よりも少し人間的になった声が何処からか聞こえて来る。
『さようなら、何処の誰とも知らぬ貴方。どうか、貴方に幸福な人生がありますように』
◇
……目を覚ますと、見知らぬ部屋に居た。
けれど、密室空間などではない。ごく平凡な、何処にでもある病院の一室だ。隣には、静かに寝息を立てる少しやつれた女性の姿が見える。
その光景を眺め――俺は、小さく嘆息した。
(……やっと、死ねたと思ったのに)




