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君ありて幸福

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「待って!」


 歩いていると、不意に背後から呼び止められた。

 振り返ると、芋臭い雰囲気をした女が焦ったような雰囲気でこちらを睨みつけている。


「んだよ、いきなり」


 その目線に少し苛ついて身体ごとその女に向き直り、じろりと睨み返す。だが女はこちらの視線を気にも留めず駆け寄って来て、俺の足元にしゃがみ込んだ。


「良かった、無事で」


 見るとそこには、一輪の花が咲いていた。まさかこの女、たかが花の為に俺を呼び止めたのか――そう思っていると、急に女がこちらを振り返り再び厳しい視線を向けて来る。


「気を付けてください。もう少しで踏むところでした」

「あー?いちいち気にして歩くかよ、そんなの」


 そう答えると、女は更に厳しい目をした。かと思えば不意に俺から目を背け、愛しむような目を花に向ける。


「貴方は、この花の花言葉を知っていますか?」

「は?何だ、いきなり」


 聞かれても……知らない。一応その花がタンポポであることは分かるが、花言葉など気にしたこともない。

 戸惑っていると、女が言った。


「蒲公英の花言葉は「真心の愛」。とっても優しい花なんです。そんな子を、傷つけちゃ駄目ですよ」


 ……そう語る女の顔が、あまりに慈愛的だったからだろうか。芋臭いと思っていたその顔が、不思議ととても可愛らしく見えた――――


       ◇


 それからと言うもの、俺は彼女と時折顔を合わせるようになった。

 恋、と言うにはやや弱い。ただ、彼女と共に過ごす時間は、これまでの退屈な日々よりもずっと楽しかった。

 彼女は花屋になるのが夢なのだと言う。以前なら嗤ったであろうその夢に、俺は「良い夢だな」と返した。


 ……そんな日々を暫く続けて。彼女の誕生日、俺は彼女に一株の花を贈った。

 自分なりに調べて、自分なりに今の関係性に近い花言葉を持つ花――赤い色の、ゼラニウムを。

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