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老いた貴方は

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「お爺ちゃん、施設に入ることになったの」


 久々の母との通話は、そんな報告から始まった。


 祖父は生粋の農民である。最後に会った去年の正月時点で既に八十歳を超えていたが、一度として腰を痛めたことさえない。その上、農業で鍛えた筋力は未だ二十代の俺ですら比較にならない程強い人だ。

 更に言えば、祖父は非常に気が強い。おまけに自分の仕事を誇りのように愛しているから、施設に入れと言われて入る人ではない筈だ。

 「何の冗談か」そう尋ねると、母は理解したようにうんうんと頷く。が、直後に溜め息を吐いて口を開いた。


「言いたいことは良く分かるけど、事実よ。

 実はここ半年ぐらい物忘れが激しくなってて、検査したら認知症だって。それでも仕事が好きな人だから「仕事を辞めたら余計にボケる」って仕事を続けてたんだけど、二ヶ月前仕事中にトラクターから落ちて……それがきっかけか、一気にボケが進行しちゃったのよ。

 それからはお婆ちゃんが介護してたんだけど、あの人ももう歳だし……それに、私達も仕事があるからもう思い切ってってことでね。

 それでここ最近ゴタゴタしてて、今まで連絡してられなかったのよ。ごめんなさいね」


 説明を受けて尚、俺は母の言葉を信じ切れずにいた。

 あの殺しても死ななそうな爺さんが、そんなことある訳がない。そう、内心思っていた。


「そんなに疑うなら今度、一緒にお見舞い行く?」


 母の誘いを、俺は二つ返事で受け入れた。


       ◇


 ――そこは、程々といった規模の施設だった。

 内部の独特な圧迫感と外界から隔絶された特殊な空気感は、介護施設と言うよりも病院らしさを感じさせる。

 その奥、四階の一室に祖父は居た。


「……………………」


 呆然と俯く祖父の瞳に光はなく、丸太を思わせる程太かった腕はまるで枯れ枝のように細く弱々しい。

 ……一瞬、誰だか分からなかった。

 これがあの祖父か。あの力強く、逞しかった祖父なのか。そんな言葉が、口から出ることなく脳内をぐるぐると堂々巡りする。


 結局、俺は祖父に何一つ声をかけず面会を終えた。

 ……その後、帰りの車中。俺の脳内には、老いに対する恐怖だけが漠然と残り続けていた。

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