愚痴の重み
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「辞めようかな、会社」
金曜日、午後十時。背後で一緒に飲んでいた男二人のうち一人が、突然そんなことを言い出した。
「何だよ、突然」
もう一人は当然、困惑顔で相手に尋ねる。酒の勢いもあり、男は笑いながら答えた。
「あんな会社、遠からず潰れるだろ。上司はクソだし給料は安いし、そのくせ意味の分からん残業は矢鱈多い。
やってられないって、あんなの」
どうやら男にとって、会社での仕事はかなり苦痛なものであるらしい。言いたいことは……良く分かるが。
「まぁ……長くは、ないよな」
もう一人の男も複雑そうに同意して、呆れたような溜め息を吐く。
「ウチ、親族経営だしなー。お前、知ってっか?ウチの会社、部長以上の役職持ちは全員親戚同士らしいぜ」
「うっわ、それでか……なーんか仲良いと思ってたんだよなー、部長と社長」
「それで優秀なら文句は無いんだけどな。どいつもこいつもコネしか無いから負担は課長以下に丸投げして、自分は何もしないんだってさ。あれで良く続いてる、ってこないだ課長が愚痴ってた」
……さっきから、何かおかしいような。会話の内容に違和感を抱きながら耳を傾けていると、初めに辞めると言い出した方の男が不意に小さく息を吐いた。
「……とは言え、辞めたとしても先の当ては何も無いんだよなぁ。お前、なんかコネ無い?」
「あったらあんなとこで働いてねぇよ……はぁ」
「だーよなー」
僅かにしんみりした空気を漂わせながら酒を飲む男達の背中をちらりと見て、私は思わず苦笑した。
……何となく、違和感の正体が分かったような気がする。
らしい、だって。又聞きのような責任感のない言葉を盲目的に信じてさも真実のように語り、そして目的さえも口ばかりで未来の展望など何一つ持たない。そんな人間が、社会というものをまともに生きていけるのだろうか。
長くないのは、どっちの方だろうな――そんなことを考えながら、私は不味い酒を喉に流し込んだ。




