無彩色に恋をする
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――「彼」と出会った日、私は言葉を失った。
肌は白く、髪は黒い。こう言えば、誰もが「普通」だと認識するだろう。しかしこの言葉は、比喩でも無ければ近似でも無い。
彼は、何の誇張もなく「白と黒」だけでできていた。
雲のような白と、炭のような黒。全身の何処を見てもそれ以外に色は無く、初めて見た時には漫画雑誌にでも迷い込んだのかと困惑した。
聞けば彼は、生まれつき全身に色が付いていなかったのだと言う。医者は「色素不足」と言ったらしいが、詳しい理由は未だ謎のままだ。
神様が色を塗り忘れたのか、或いはそういう特殊なものとして作り上げられた存在なのか――どちらにせよ、人でなく神とやらに原因があることは間違いあるまい。
容姿の特殊な彼は、付き合ってみればごく平凡な青年だった。そんな彼に、私は問いかける。
「辛いと思ったことはないのか」
特異な体質だ。幼い頃からそうだったと言うなら、異端と言うものに残酷な子供は彼を強く迫害したに違いない。それは同じく幼い彼にとって、どれほどの苦痛だったのだろうか。
悪意でも、好奇心でもない。敢えて言うのならば憐憫の感情で尋ねた私に、彼は真顔で答えた。
「別に。僕にとって、それは「普通」だったから」
その答えを聞いて、私は思わず涙を溢した。
ただの誤解かも知れない。けれどもし、彼の言う「普通」が、私の想像する通りのものであるとするならば。
――それは、あまりにも悲しすぎる。
向けられる感情が。好奇、嫌悪、敵意……そのような悪意の全てが「普通」となる人生はどんなに苦痛で、そしてどれ程の悲哀に満ちていたのだろう。
泣く私に、彼は首を傾げている。
きっと私の反応は、彼にとって「異常」なのだろう。憐憫など、向けられたことがないのだろう。
そんなあまりにも悲しい彼の人生を、必ず幸せなものに変えると――私は、心の中で密かに誓った。




