夜の棺【後編】
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「別に、何も要らなかったのではないでしょうか」
「………………は?」
私の言葉に、老紳士は吐息のような声で返した。
「私見ですが、「金では手に入らないもの」なんてこの世界には殆どありませんよ。あるとしてせいぜい「死んだもの」ぐらいだと思います。
奥様がそれを求めていた可能性は否定できませんが、話を聞く限りどちらかと言えばこちらかな、と」
「……何故、そう思うのですか?」
怪訝な表情で問い掛けてくる老紳士に、私は淡々と返答する。
「似ているな、と思ったのですよ。奥様の考え方が、私に。
私の「欲しいもの」も、金では手に入りません。私が私である限り、それが手に入る確率は殆どないと言っていいでしょう。
結論から言うと、私は「欲しいもの」が欲しい。心から何かを求めたことが、私にはないのです。
何かが欲しくなれるかと思い、何もかもに興味を向けた。けれど全て、不要に思えて仕方ない。
そう言う意味では、奥様は幸運でしょう。ちゃんと「欲しいもの」を見つけることができたのですから」
私の言葉を、老紳士は何も言わず聞いていた。私は続けて彼に、最も伝えたいことを告げる。
「きっと、貴方がここに来たことに意味はない。この町は五十年前と違い、既に死にかけている。
五十年前。当時ここは恐らくまだ生きていて、何かがあったのだと思います。だから彼女はここに居た。
けれど、死に向かうここにはもう何もない。貴方はきっと、彼女のように探せない。
暗い棺の中は、探し物をするには狭すぎますから」
言い切って、私は立ち上がる。
「水、ご馳走様でした。では、これで」
「……一つ、お聞きしても?」
扉を開け、去ろうとする私の背に老紳士は悲しげな声で呼び掛けた。
「――貴方は何故、この町にいるのですか?」
「……簡単ですよ。私が誰よりも臆病な小心者だから――ただ、それだけのことです」
――こつ、こつ、こつ、こつ。
暗闇の中、足音だけを響かせて歩く。
いつしかそれが足音なのか、或いは弱々しい心音なのかの区別さえも付かなくなる。
……果たして、死に向かっているのはどちらなのだろうか。それは、最早誰にも分からない。
けれど、どちらもが緩やかに暗い夜の棺の中へと落ち込んで行っていることだけは、紛れもない事実だった。
さて、本作初の続きもの回はこれにてお終いです。
どうでしょう?たまにはこういう回があっても良いと思いますか?それとも、一日で完結するお話の方が良いでしょうか?
別に「やりたいようにやる」でも良いんですが、どうせなら読者の意見を取り入れたいなと思ってまして。
どんな形でも良いので、何かしらの反応をいただけると今後の参考になります。
まぁ、取り敢えず明日から暫くは今まで通り一日で完結するものを投稿しますので。
そんな感じで、よろしくお願いしますねー。




