忘れ、歪む
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平凡の中で、何かが深く歪んでいる。
街を歩く。其処に在るのは、普遍的な日常だ。
制服を着た若者が放課後の予定を語り合い、スーツを着こなした青年が顔も見えない相手に幾度も頭を下げ、老爺老婆が公園に集って球遊びをする。
そんな平凡の足元には、夥しい数の死が満ちている。
ふと見下ろした足元に蝉の死骸を見つけた。何者かに踏み潰され、ぐしゃりと潰れた翅と腹の破片は見るからに少ない。恐らくは、蟻にでも持ち去られたのだろう。
またある場所には、蜻蛉の亡骸が転がっていた。
先刻の蝉程凄惨な状態ではなかったものの、眼球にくり抜かれたような穴が空いており伽藍洞な内部が露出している。朽ちたか食われたか、それは定かではない。
取るに足らぬ死の集合。五分の魂の無価値。
それはある意味当然で、けれど思考の屈折でもある。
命は平等、などとは言わない。人であれ獣であれ、その重みには自然と序列ができるものだ。
だが、故にこそ恐れている。その屈折が、いずれ人という種をも食い尽くすのではないかと。
蟲の亡骸が価値持たぬ風景の一つであるように、人の命もいずれ価値を忘却された風景の一つになってしまうのではないかと時折不安に思うのだ。
……いや、思えば。人という生き物の在り方は、初めからそのようなものだったのかも知れない。
――人は当然に、人の名を忘却するのだから。




