幻想と静寂
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ふらりと外に出ると、妙に静かな感じがした。
そう言えばニュースで、近く大きな台風が来るとか言っていた記憶がある。ならば、これは文字通りの「嵐の前の静けさ」と言うものだろうか。
都会らしい喧騒の無い街は、見慣れている筈の風景さえも初見の場所のように感じられる。
物見遊山の旅行先を歩いているような高揚感を味わいながら散策を続ける中で、呆然と波打ち際に佇む少女を見つけた。
「何をしているのか」そう問いかけると、少女は虚ろな瞳で「死に場所を探している」と言う。
こちらから事情を尋ねることはせず、また少女も態々語ろうとはしない。必然的に先刻と同様の沈黙が流れ、微かに荒れた波音だけがその場に響く。
「ならば何故、君は死なないのか」
溢すように、そう尋ねた。
少女はこちらに目を向けず、海に向かって返答する。
「死にたくないから」
異なことを言うものだ、と困惑した。
死に場所を探すのは死にたいからである筈なのに、反して死にたくないと言う。それでは矛盾してしまうじゃないか――そう、嘲るように言葉を投げた。
少女はやはりこちらを振り向かず、ただ機械のように冷淡な声で静かに告げる。
「……人間なんて、そんなものでしょう」
その言葉を最後に、少女は歩き去って行く。足音も立てず砂浜を行く彼女の背中は何処か幻想的で、妖精や幽霊のような空想の精霊を彷彿とさせた。
私はぼうと立ち尽くしながら、遠く消えて行く蜃気楼のようなその姿に視線を向け続ける。
……名さえ知らない。ほんの数分、交わした言葉が会話だったのかでさえも定かではない。
けれど、私の魂は――その数分で、あの悪魔のような少女に奪い去られていた。




