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藍色の時間

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 藍色の時間。昔から、それがとても好きだった。

 殆ど落ちてほんの僅かしか見えない夕日と、呑み込むように広がる夜。その狭間に映る数分だけの藍色を、幼い頃から幾度も見てきた。


 いつでも見られるように、と、写真に撮ったこともあるが、何か違うと感じて消した。

 写真では、あの鮮やかな藍色にならない。それと全く同じ理由で、絵もしっくり来なかった。

 だから、毎日数分だけ。それを見られる時間を、いつも楽しみにしていたものだ。


 ――――いつからだろう。この時間、外に出なくなったのは。

 周囲との人間関係に疲れた時か、仕事が苦しくなった時か――上手く思い出せないが、「他の楽しみを得た」なんて幸せな理由では決して無かったと思う。

 

 ただ、幸せを許容する程心の中に余裕が無くて。好きな景色を見ることすら、億劫になってしまっていた。

 今も別に、余裕が出来た訳ではない。寧ろ、余裕自体はあの頃よりも遥かに少なくなっただろう。

 だが――数年振りに見た藍色は、泣きたいぐらいに美しくて。眺めていると、心が洗われるような気がする。


 そこで、漸く気が付いた。

 自分の今まで「不幸に耐えてきた時間」は――何一つとして、意味の無い時間だったのだと。

 不幸など、そもそも耐えるものではないのだ。人の心は初めから、不幸に耐えるようになど作られていない。

 幸福を得て、心の器が満たされることはある。だが、不幸は器を満たす訳でも中身を減らす訳でもなく、器そのものを破壊するのだ。


 幸福と不幸は対義だ。そのせいで、不幸も中身に影響を及ぼすものだと無意識に誤解していたのだろう。

 そうとなれば、話は至極単純だ。私はのんびりと歩きながら、藍色の空をぼんやりと眺めた。

 満たされていく。愛しさと美しさが幸福になって、心を静かに満たしていく。


 耐えなくて良いのだ――そう確信して、私はまた前へ進む。

 空になっていた器を、少しずつ幸福で満たしながら。

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