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帰路のおやつにクッキーを

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 くぅ、と小さく腹が鳴った。

 影を見ると、おやつ時を示している。それは小腹も空くだろうな、なんてことを考えつつ、何かあったかとポケットや鞄を弄った。


 結果、鞄には何も無かったが、ポケットにはクッキーが二、三枚だけ入っていた。

 何故、とかいつから、とか考えて、止めておこうかと逡巡する。しかし空腹に耐え切れず、匂いを確かめて大丈夫そうならということにした。


 そっと包み紙を開けて、恐る恐る匂いを嗅ぐ。

 別段、嫌な匂いはしない。ごく普通の、何処にでもある平凡なクッキーらしい匂いだ。

 自分の嗅覚を信じ、クッキーを一枚口に運ぶ。そうして前歯で噛み切ると、ふわりと優しい甘さが口の中に広がった。


 ――――美味しい。

 

 素朴だが、絶妙な甘さだ。高級感の無さが逆に舌に心地良く、どこか懐かしいその風味は故郷の風景を連想させた。

 がっつきそうになったがその欲求をぐっと堪え、噛み締めるように一口一口齧って行く。


 そうして食べているうちに、いつの間にか涙が出ていた。

 無意識だった。自分でも驚いて、指で頬を思わずなぞってしまったぐらいだ。

 どうして――と考えれば、答えは自分の内にあった。


 もうすぐ、懐かしき故郷に着く。近付くにつれ思い出深く、愛おしい場所――そう遠からぬその場所を想い、私は涙を流したのだ。

 あと少し、あと少しで帰り着く。私はクッキーを食べ終えて、止めていた足を動かし始めた。


 そろそろ日が暮れ始め、夕暮れになる。そうなれば、目指す故郷はすぐ近くだ。

 目指して進もう。急ぎ足で、けれど時折こうして懐かしさに足を止めながら。


 もうすぐ、目指す場所に着く。そこを向かう決意を新たにして、私は再び前へ進む。

 そうして、辿り着いた暁には――旅の思い出に浸りながら、クッキーでも食べるとしようか。


 楽しみが増えた帰路、その足取りは今までより幾分か軽快になったような気がした。

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