降臨
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……「理解」とは、人にとっての「限界」である。この日、私はそう悟った。
元々、芸術鑑賞を好んでいた。創作物に宿る作者の意思や感情、執念の美しさに魅せられ、感動のみならず崇敬の念を抱いたことさえある。
しかし、それらはあくまで「理解できる美」であった。
美しいが、人が表現可能なもの。人如きが理解し、再現可能な程度のものでしか無かったのである。
「真の美」を前に、そう悟った。
その背に携えた翼は見たことも無い白をしており、これまで見てきた白が濁った灰色のように思える。異形とも思える形には奇妙な程に無駄が無く、見た瞬間に「これが存在としての理想形なのだ」と直感した。
「それ」は言葉を発さない。ただ天に浮遊し、眼下に集う人間を静かに見下ろしている。
その姿を見た者達の反応は様々だ――否、目的自体は全て同じか。
手を合わせ、頭を垂れ、跪く。各々に祈りを捧げるような動作を、人々は揃って行った。
そんな彼らを見下ろしていた「それ」は、恐らくは人の手に当たる部位――それをすぅと動かして、撫でるように円を描いた。
……直後。祈っていた醜悪な蟲けら達は醜悪な肉塊に成り果てて、黒い大地を赤く染めた。
その現象に、慄く者は一人も居ない。死ななかった蟲けら達は皆変わりなく祈りを続け、中には感涙に咽ぶ者さえ居る。
私はそんな光景を眺めながら、ただ呆然と見惚れていた。
あまりに完成され尽くしたその美しさに、では無い。
まるで宗教画が現実になったかのような、その光景そのものに目を奪われていたのだ。
私は祈りの動作を知らない。故に祈ることは出来ず、涙を流すことしか出来ない。
ゆっくりと、スローモーションのような動作で蟲けらを肉塊に変えていく「それ」を、いつまでもいつまでも感動と共に見つめ続けた。
……やがて、「それ」が私の前に現れる。
間近で見るその姿はあまりに神々しく、目が潰れるのではと思いながらも瞬きすらせず見惚れていた。
……すぅ、と頭上を手が撫でる。
弾けるように肉塊へと姿を変えながら――それでも私は、その姿を涙ながらに見つめ続けていた。




