静暑の記憶【前編】
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……一つ、思い出話をしよう。
これは私が、まだ幼かった頃の話だ。具体的な年齢は覚えていないが、確か小学校に入学するより少し前ぐらいだったと思う。
その日は酷く暑い日で、その所為か夏なのに蝉の声が全く聞こえなかったのを覚えている。
ニュースでも異常気象を伝えていて、外に出ると一瞬で全身に汗が浮く。アスファルトも熱で溶けているらしく、踏むと靴裏が黒く染まった。
そんな日に外に出ていたことに、何か理由があったのか。我がことながら、それは今も定かでは無い。しかし幼い子供が親も連れず一人で出掛けていた辺り、その理由は恐らく些細な冒険心――台風の日にテンションが上がるのと、ある種似た気分だったのだろう。
そうして外に出た私は、いつも遊ぶ公園に向かった。
道中、幾度か車とはすれ違ったが、人とは一度も会わなかった。当時はいつも縁側に居るお婆ちゃんとか、携帯に謝罪するスーツのおじさんとか、いつも何やら飲みながら笑っているぼろぼろのお爺さんとかに会わないことをとても不思議がったものだが、今にして思えば居なくて当たり前である。あの日の暑さを考えれば、わざわざ外に居る人間など居る筈が無い。
いつもより少し時間をかけて到着した公園も、やはり静まり返っていた。
誰も居ない。大抵、ここに来れば遊んでくれるお兄さんやお姉さん、近所の友達に会えたものだが、この日は道中と同じで全く誰の気配も無かった。
帰ろうと思わなかったのは、意地と言うか駄々のような思考である。折角来たのに遊ばずに帰りたくない、そんな思いでそこに残った。
けれど、遊具はどれも使えない。殆どの遊具は熱くて触れたものでは無いし、砂場の砂も同様だ。出来ることと言えばそれらを使わない遊びだが、思い付くそれらはどれも一人で遊ぶものではない。
どうしようか――考えていると、不意にゆらりと視界が揺れる。そして気付けば目の前に、一人の女が立っていた。
女は見るだけで安堵してしまう程に穏やかで美しい笑みを浮かべ、幼い私にこう告げる。
「……いっしょに、あそぼう?」
〈続く〉




