天使を追う
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暗い朝だった。
日の出にはまだ早い時間。そんな夜にも近い朝を歩く少年の前に、一匹の天使が現れた。
「人の子よ、このことは内密に」
天使はそう告げると同時に一瞬強い光を放ち、直後にはもうその場から居なくなっていた。
少年は動けなかった。まばたきもせず、顔も覆わず、目も逸らさなかった自分が視力を失ったことなど、一切気にもならなかった。
それからの彼の人生は、届かぬ美を追い求めるだけの側から見れば無意味な時間の経過となった。
見えもしない目で色を混ぜ、紙に筆を走らせる。その前衛的とすら言える歪な天使像は、常に彼の瞼に映るあの姿とは遠く遠くかけ離れていた。
その紙の上に描かれた翼には、雪のそれよりも遥かに白いあの翼の面影など微塵も無い。盲目の人間が描いたとは思えない程写真的なその顔は、男か女かも分からないのにどちらもが無条件で恋をするようなあの美麗な顔立ちを、全く再現出来ていなかった。
彼は紙を破き、改めてまた描き始める。そして完成させる度、納得が行かず破り捨てる……そんなことを何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返した。けれどその中に一枚とて、納得の行く絵など無かった。
やがて、彼は絵を描けなくなった。碌に飯も食わず、天使を描き続けた身体はぼろぼろで、最早立つことも人の手無くして出来ない程だ。
手足で描けなくなり、口で絵を描き始めた人間もこの世には居る。しかし彼は、決してそうはしなかった。
彼は知っていた。慣れた手以外で絵を描いても、自分の望みは叶わないことを――否、手で絵を描いても納得したことは無いのだが。
……結局、彼はそのまま死んだ。
死んだ後、彼は描きたかったものを見られたのだろうか――それは我々が生きる限り、知ることの出来ない真実である。




