笑う
投稿しました!
良ければ評価、感想よろしくお願いします!
目を覚ますと、酷く眩暈がした。
瓶の中に入れられて、振り回されているような感覚。立ち上がるのもままならず、その場に崩れ落ちそうになる。
そのぐらつきをなんとか耐え、障子を開けて縁側に出ると、外はまだ夜に包まれていた。
早く起き過ぎたか――そう思いつつも部屋に戻ろうとは思えず、呆然と廊下を歩いて行く。
別に、目的があった訳ではない。何事も無ければ多分台所で水を飲むか、便所に行くかして何も出さず戻って来ていただろうと思う。
そうしなかったのは、奇妙な声が聞こえたからだ。
縁側から見える広い庭、その奥の方から誰かが笑う声がする。その笑い声は酷く狂気的なもので、聞くだけで酷い不快感を覚えた。
――――あきゃ、きゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ。
不気味な声。笑い声であることはなんとなく理解出来るのに、そうだと認識したくない。幸福に満ちた声なのに、それが他者にとっての不幸でしか無いと聞くだけで分かるような声だ。
逃げれば良かった。後からならそう言えるだろうが、今の自分はそれをすることが出来なかった。
裸足のまま、声のする方へ歩いて行く。足の裏は小石でちくちくと痛んで、植え込みを掻き分けて進む中では枝葉で皮膚がぴりぴりと裂ける。
けれど、止まらなかった。それどころかその痛みが、推進力になっていたかのようにも思う。
植え込みを抜けると、果たしてそこにそれは居た。
月明かり照らす逆光の中、黒い影があの笑い声を高らかに歌い上げている。その手には赤く光る短剣があり、足下には赤黒い塊が落ちていた。
「何をしてるの」
問い掛けると、影がぐりんとこちらを向く。
不思議と、恐ろしいとは思わなかった。影はまたあの笑い声を上げて、それからこちらを指差して答える。
『分かるだろ』
……気付くと、影は消えていて。足下には、赤黒い塊が転がっていた。
夢を見ていたような、そんな気分だった。足下の塊を見下ろして、私は高らかに笑い声を上げる。
――――あきゃ、きゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ。




