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そして、伽藍洞

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 ――――何処かで、蝉が、鳴いていた。

 冬なのに奇妙な話だ――そんな風に思いながら、森の中を歩いて行く。道無き道を掻き分けている筈なのに、何故か舗装された道を進まされているような気がした。


 進んで、その先で小さな沢に出た。

 さああ、と水の流れる音がする時々で、急にしぃんと無音が満ちる時がある。その瞬間には瞬くような光がぽうと沢の周りに浮かび上がって、幻想的なのに何処か不安を煽られる。その感覚はまるで、無数に星が浮かぶ中で月だけが映らない暗い新月の夜のようだった。


 静寂と流音を繰り返す沢を越えると、その先に長い橋が見えてくる。

 ぼろぼろで、今にも崩れそうな橋だ。ほんの少し下を覗くと真の暗闇が広がっていて、吸い込まれそうな錯覚に陥る。

 小石を投げ落としてみたが、地面に触れた音は聞こえない。代わりに、呻くような悲鳴が薄らと響いたような気がした。

 恐る恐ると橋に進む。そっとふれただけでぎぃぃと軋む音がして、思わず身体を引っ込めた。

 けれど、進まなければ終われない。意を決して身体を少しずつ前へと進め、軋む音にびくびくしながらもなんとか橋を渡り切る。それと同じ瞬間に、こぉーんという地面を叩く音がした。


 そこから更に先へ進むと、そこは展望台だった。

 どうやら山頂であるらしい。ひびの入ったコンクリートで出来た不自然に平坦な足場の所々には、腐ったベンチが飾られている。そしてその正面には、茶色く錆び付いた望遠鏡が備わっていた。

 覗き込むが、擦れたレンズは白いばかりで何も見えない。辛うじて、微かな街の小さな灯りが見える程度だ。

 そっと腐ったベンチに腰掛け、ぼうと街を展望する。

 街は灯りが滲むばかりで、生活感がまるで無い。その風景は美しいが、同時に酷く伽藍洞だ。

 幾億年。ただそこに在り続けた世界は、最早単なる空洞だ。

 在るだけで、何も無い。それはとても寂しいことで、同時にとても虚しいことだ。

 そんな世界を眺めながら、暗い夜は更けて行く。

 そして、世界は――本当の意味で、伽藍洞になった。

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