中毒の色
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昔、一人の少女を見た。幼い頃、母に連れられて行った旅行先での話である。
母の見栄なのか何なのか、その際宿泊することになった矢鱈と高級そうなホテル。そのロビーに彼女は居た。
パーティーか何かの為だろうか、美しく着飾った少女の姿に私は見惚れた。
黒ながら薄らと藍色がかった、夜のような色の長髪。それとは真逆に肌は雪よりも真っ白で、しかし不健康さは感じられない。
独特な翠色をした瞳はまるでエメラルドのようで、それをそのまま指輪に嵌め込んでも何ら違和感は無いだろうなと幼心に少し思った。
しかし何より目を引いたのは、彼女の着ていたドレスである。
彼女の目とは正反対の、紫色をしたドレス。はっきり言って似合っているとは言い難かったが、ゲーム脳であり「紫=毒」のイメージを持っていた自分でさえ、それを美しいと感じずには居られなかった。
アメジストのよう、という訳では無い。寧ろその色は黒に近く、それこそかなり毒々しい。
けれど、何と言えば良いのだろう。毒は毒でも中毒と言うか、異様ながらその魅力に目が離せなくなる。あんな似合わない服を選んでしまった人間も、恐らく同じ感覚に支配されたのだろうと子供ながらに理解できた。
そうしてぼうっと見続けて、どれくらい時間が経ったのだろうか。視線の先にいた少女は使用人らしき老爺に連れられ歩き去って行き、立ち尽くす自分だけが残る。
動くことは出来なかった。目で追うことも出来なかった。出来たことと言えばただ呆然と立ち尽くし、最早そこに居ない少女の――否、彼女が着ていたドレスの幻影を見ることだけだった。
……あれから何年が経っただろう。今も私は、あの服に心を奪われている。
再現しようと挑戦したが、未だ成功はしていない。しかし不可能を思いながらも、止めることは出来なかった。
支配されている。そんな言葉が、正しい程に。
私はあの服に、あの色に――中毒れさせられているのだろう。




