表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/200

中毒の色

投稿しました!

良ければ評価、感想よろしくお願いします!

 昔、一人の少女を見た。幼い頃、母に連れられて行った旅行先での話である。

 母の見栄なのか何なのか、その際宿泊することになった矢鱈と高級そうなホテル。そのロビーに彼女は居た。


 パーティーか何かの為だろうか、美しく着飾った少女の姿に私は見惚れた。

 黒ながら薄らと藍色がかった、夜のような色の長髪。それとは真逆に肌は雪よりも真っ白で、しかし不健康さは感じられない。

 独特な翠色をした瞳はまるでエメラルドのようで、それをそのまま指輪に嵌め込んでも何ら違和感は無いだろうなと幼心に少し思った。


 しかし何より目を引いたのは、彼女の着ていたドレスである。

 彼女の目とは正反対の、紫色をしたドレス。はっきり言って似合っているとは言い難かったが、ゲーム脳であり「紫=毒」のイメージを持っていた自分でさえ、それを美しいと感じずには居られなかった。


 アメジストのよう、という訳では無い。寧ろその色は黒に近く、それこそかなり毒々しい。

 けれど、何と言えば良いのだろう。毒は毒でも中毒と言うか、異様ながらその魅力に目が離せなくなる。あんな似合わない服を選んでしまった人間も、恐らく同じ感覚に支配されたのだろうと子供ながらに理解できた。


 そうしてぼうっと見続けて、どれくらい時間が経ったのだろうか。視線の先にいた少女は使用人らしき老爺に連れられ歩き去って行き、立ち尽くす自分だけが残る。

 動くことは出来なかった。目で追うことも出来なかった。出来たことと言えばただ呆然と立ち尽くし、最早そこに居ない少女の――否、彼女が着ていたドレスの幻影を見ることだけだった。


 ……あれから何年が経っただろう。今も私は、あの服に心を奪われている。

 再現しようと挑戦したが、未だ成功はしていない。しかし不可能を思いながらも、止めることは出来なかった。

 支配されている。そんな言葉が、正しい程に。

 

 私はあの服に、あの色に――中毒(おぼ)れさせられているのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ