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産声

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 夜明け前、近場の海辺を訪れた。

 先日亡くなった父の遺品から釣り竿を見つけ、時折連れて行って貰った幼少期を懐かしんだ為である。

 

 久しく訪れた海辺は、当時と何も変わらない。

 穏やかな波音と少し煩わしい潮の香り、そして遠くに昇る朝日。その全てが、記憶の中と同一だった。


 周囲には他にも二、三人程釣り人が居て、ある者は退屈そうに海を眺め、ある者は糸を海に垂らしたまま座って本を読んでいる。

 そんな彼らの様子を少し懐かしく思いながら釣竿や餌の用意を済ませ、ぽいと海に糸を垂らした。


 それから暫く待ってみたが、竿も糸も悲しい程に無反応だ。せいぜいが風にほんの少し揺られる程度で、それ以外はまるで微動だにしない。

 場所が悪いのかもな――そう思い、釣り糸を上げて場所を移動し始める。そうして数分程歩き、気付けば殆ど人の居ない所に出ていた。


 そこは岩場になっており、波に削られたらしい鋭く尖った岩が所狭しと並んでいる。

 恐らくは、転んだら命は無いだろう。そう考えながら慎重に歩を進めていると、岩が少なく開けたエリアに辿り着く。


 ここら辺にするか――そう決めて近くの岩に腰を下ろし、餌を付けて糸を海に放り投げる。そうして浮かぶウキをぼんやりと眺めていた時、ふと何かが海面を漂っていることに気が付いた。

 藻か、海月か。初めはそんな風に思ったが、見る限りどうやら違うらしい。


 藻と言うには肉厚で、海月と言うには矢鱈に大きい。魚の死骸とも考えたが、波に乗って流されて来たそれはそんなものでは無かった。

 ぶよぶよと膨れ上がった、不気味な肉塊。その姿は数日の間酢に浸し、殻を溶かし尽くした透明な卵を連想させた。


 恐れより、更には困惑よりも先に、そんなものをふと思い出してしまったのは。

 肉塊から僅かに漏れる空気の音が、私には赤子の鳴き声のように感じられたからだろう――――。

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