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鈍感

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 父を殺して、はや十年が経過した。

 「十年一昔」などという言葉も存在するが、一昔前などと感じる程過去の出来事に思えないのが不思議である。


 恐らくは、あの日の記憶があまりにも鮮明過ぎる所為だろう。実際昨日の夕食すら曖昧なのに、あの日に限っては家を出てから帰るまでに蹴飛ばした小石の数さえはっきり覚えている程だ。

 紐付け記憶、というやつか。鮮烈な記憶の前後に起こった出来事は、記憶として残りやすいものらしい。それを利用する為に、何処かの特殊部隊では指令などを覚える際、痛みと紐付けて記憶する為に自分に傷を付けるのだと一度聞いたことがある。


 少し逸れたが要するに、まるで昨日のことのようだという話だ。あの時の感情も、感覚も、感想も、全てはっきりと全身に焼き付いているのだから。


 父は恐らく、世間で言うところの「毒親」というやつだったのではないかと思う。異常な程に口煩く、滅多なことでは褒めもしない冷徹無比な人間だった。

 母もそんな父に参っていたようで、夜になるとしょっちゅう口喧嘩をしていた。頭がおかしいだの病院へ行った方が良いだのと、障害を疑うような罵倒を父が一方的に投げていたのを覚えている。


 母はそんな父を宥めるように「まぁまぁ」とか「考え過ぎよ」などと穏やかに言っていたが、その表情は明らかに疲れ果てていた。

 だから、殺した。優しい母を困らせるような男など、この世に居るべきでは無いと思ったからだ。


 父の死体は海に捨てた。重石を括り付けておいたから、多分永遠に浮かんで来ることは無いだろう。

 これで母も気楽になる。そう思っていたのだが、つい先日に自ら命を絶ってしまった。恐らく、母の心は既に壊れてしまっていたのだろう。


 もっと早く動いていれば。そんな後悔に駆られたが、起きたことはどうしようも無い。そう諦めて遺品整理をしていたところ、偶然母の日記を見つけた。

 内容はごく普通の、自分も知る日常のことが綴られていた。その日々に思いを馳せ、懐かしみながらページを捲って、最後のページにこんな記述を発見した。


『あなた、本当にごめんなさい。

 もっと早く、あなたの言う通りにしていれば』


 ……言葉の意味は、正直あまり分からなかった。

 まぁ、考えても仕方ない。そう諦めて日記を閉じ、再び遺品整理を再開した。

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