透き通る病
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この世界で僕だけが、水彩絵具でできている。
――それは、奇妙な病だった。
水に触れると、身体の色が溶け落ちる。時間が経てば戻る、と言うものでもなく、塗り直さない限りはその部分が元に戻ることはない。
生きる分には、何ら労のない病である。消えたままだとこの世界から存在自体が消えて無くなるなどと言う漫画のような展開もなければ、身体的な負荷が掛かるような症状がある訳でもない。ただ肉体が透けて、周囲から認識できなくなるだけだ。まぁだからと言って、役に立つかと問われればそうでもない訳だが。
ある医者曰く、この病は相当珍妙なものらしい。これまでに同じ病を発症した人間は、世界の歴史を見ても僕を含めて二桁行くか行かないかだと言っていた。
この病の話を聞いた人間の反応は、大きく分けて二種類である。男と女で分かれる、と言った方が正しいか。
男ならば「羨ましい」と言う。
女ならば一歩下がって苦笑いをする。
言いたいことは分かるのだが、こちらとしては濡れ衣も良いところだ。明言しておくが僕は、そんな下卑た行為にこの病を利用したことは一度もない。
……まぁ、それはともかく。
何が言いたいかと言えば、透明人間などそう楽しいものでもないと言うことだ。
特段、目立って人の役に立つものでもなければ自分の助けになるものでもない。人間の想像の範疇で可能な行為と言えばせいぜい覗きやらカンニングやらの下卑た行為くらいだし、更に言えばやっていなくてもそれを疑われるのだからデメリットでさえある。
透明人間とは、そんな「面倒臭い」存在だ。
……生まれながらにして「面倒臭い人生」が確約されている。正直割と絶望的だが、それを理由に将来を悲観する気にはなれなかった。
「だって」なんて、続く言葉はない。要するに「なんとなく」だ。
まぁ、面倒臭いのは嫌だがそれはそれなりに生きてみよう。案外、面白いことがあるかも知れない。




