少女の遺言【前編】
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――――これは数年前、ある昼休みの出来事だ。
その日は、とても穏やかな晴天だった。真夏の割には涼しくて、風が心地良かったことを覚えている。
そんな日だから、たまには外で昼飯を食うかと少年は校舎の屋上へ赴いた。
屋上は本来、生徒立ち入り禁止である。ただ偶々鍵が壊れていて、入れることに気付いて以来、彼はこの場所を一人になりたい時や昼を食う時偶に利用するようになっていた。
「……え」
そんな場所なので普段、屋上に人が居ることはない。
居るとしたら、それは――
「……誰?」
――――自殺志願者、くらいのものだ。
その少女は既に、柵の向こうに立っていた。
校舎裏に落ちる位置だから誰も気付いていないようだが、窓は教室に面しているから落ちれば誰か気が付くだろう。
「よっ、と」
質問には答えず、柵に寄りかかるように座る。そうして菓子パンを開ける少年の姿を、少女は怪訝そうに見つめていた。
「……この状況で、よくご飯が食べられるね」
「腹が減ってたんでな」
「止めたり、しないの?」
「別に、好きにすれば良いだろ……あ、でも食い終わるまでは待ってくれ。このタイミングで飛ばれたら、俺が殺したと思われる」
冷たいね、なんて言いつつ少女は柵を乗り越え、外から内へと戻ってきた。そして何を思ったか、隣にそっと腰掛けてくる。
「……何?」
「あなたが食事を終えるまで、私は死んじゃいけないんでしょ?だったらそれまで、私の話し相手になってよ。
お願いを聞いてあげるんだから、そのくらいしてくれたって良いんじゃない?」
「別に、構わないけど……お前、自殺志願者にしては図々しい奴だな」
「よく言われる」
そう言って、少女は悪戯っぽく笑った。
死にたがりらしからぬその微笑を、今も鮮明に覚えている。以降どんな美女に笑顔を向けられても、全くときめかない程に。
この日の出会いは、彼にとって――最初で最後の、恋となった。
〈続く〉




