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手のひらを太陽に

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 ぼんやりと、空に向けて手を伸ばした。

 握った手は太陽を優しく包み込んで、けれど妙にひんやりしている。その虚しい冷たさは、それが掴めないものであると諭しているかのようだった。


「……はは」


 我ながら、何をしているのやら。馬鹿らしく幼いその行為を微かに自嘲して、寝ていた芝から身体を起こす。

 背中の芝を払おうとして、不意に手のひらが目に入った。

 凸凹の、タコやら破れたマメだらけの手。かつては誇らしかったそれが、虚しくずきりと痛みを伝える。


「三年……か」


 呟いて、最早無価値となった時間を思い返す。

 ずっと、夢に見ていた場所。幾度も幾度も折れかけながら、それでも求め続けた理想。

 もう――届かない。輝かしい未来の筈だったそれは過去にあった希望になって、いつかは靄に覆われる。


 濁って、薄れて。そうなると分かっていたのなら、きっと追いかけなかっただろう。

 ……また、手のひらがずきりと痛む。思い出させるようなそれも、遠からず消えてしまうと言うのに。

 それなのに――酷く、痛む。


「……痛い、な」


 そっと、その手をもう片方の手で抑えて。ぐ、と抱きしめるように縮こまった。

 それは多分、ただの誤魔化しでしかない。痛んでいるのが手のひらでは無いことなど、自分が一番分かっている。

 ……だが、それでも。痛んでいるのは手のひらだと、そう思い込んでおかないと、耐えられそうに無かったのだ。


「ぐ……ぅ」


 溢れそうになる、熱い何かを。子供のように目から溢してしまいそうな、苦しく痛い悔しさを。

 そうなれば、きっと無価値に出来なくなる。無価値だとでも思わなければ、前に進むことが出来ない程に大きい物を――どうしても、諦められなくなってしまう。


「痛い、痛い……っ」


 強く、両手を胸に抑えつける。手のひらに、痛みを写し取るかのように。

 ……だが、無駄だった。痛みは結局消えないまま、涙は大きく溢れ出す。


 ひとしきり泣いて、また太陽に手を伸ばす。

 今度は、ほんの少しだけ暖かい気がした。

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