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そして、私は彼女を忘れた

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 今朝、祖母が死んだ。

 九十二歳、老衰だった。朝、看護師が挨拶に行くと静かに息を引き取っていたのだと言う。

 

 聞くところによると前日、面会を終えて帰ろうとした叔母に「ありがとう」と言ったらしい。

 祖母は気弱な私とは違い厳しく気の強い人で、弱音も感謝も一度として吐いたことの無い人だったからその日の帰り、叔母は珍しいこともあるものだと思っていたそうなのだが――今にして思えば、あれは死を悟っての言葉だったのでは無いかと悲しそうに言っていた。


 葬儀場に訪れた私が祖母の顔を見ると、弱った様子など微塵も無い記憶通りの顔をしていた。

 死んだようには思えない――とは、言えない。青白い肌にはまるで生気を感じないし、触れた肌は硬く冷たく冬の石像か何かのようだ。

 けれど、弱々しくは無かった。一目で死んでいると分かるのに、自分より余程力に満ちているような――そんな、不思議な迫力がある。


 流石だな――そう思っていると、叔母から一枚の封筒を手渡された。受け取ってそれを見てみると、表に私の名前が書いてある。

 第一発見者の看護師曰く、亡くなった祖母の枕元にいつの間にか置かれていたらしい。前夜は無かった、と言っているから恐らく夜に置いたのだろう。


 しかも、それが家族全員分。死の間際にそれを書いて置いたとしたら、本当に流石と言う他ない。

 叔母曰く、一人一人違うことが書いてあったそうだ。それは遺言と言うよりも、どちらかと言えばアドバイスのようであったと言う。

 中から手紙を取り出して読んでみるとそこにはとても丁寧な、けれど少しぶれた字体で、こんな言葉が記されていた。


『私のことは忘れなさい。貴方の未来に居ない人間のことなんて、覚えているだけ無駄だから』


「は――はは」


 思わず、笑ってしまった。

 何と言うか、祖母らしい。自分の死を悲しませるつもりのない発言をするところが、特に。

 ひとしきり笑って、私は泣いた。泣いて、泣いて、泣き尽くして……そして、忘れた。


 多分もう、思い出すこともあまり無い。薄情と思わなくも無いが、これで良いのだと思う。

 確かに居た、けれど忘れたあの人は。私が過去を振り返らず、未来へ進むことを望んだのだから。

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