蝶は上空を飛ぶ
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気紛れに空を見上げると、そこに一匹の蝶が居た。
とても、不思議な蝶だった――別に昆虫に詳しいという訳でもないが、一目見ただけで既存の種では無いと即座に判断できるような。
翅の形は、黒揚羽に良く似ている。けれどその色は純白で、紋白蝶より更に白い。羽ばたく旅に舞い散る鱗粉は奇妙なことに黄金色で、砂金を撒いているかの様だ。
翅の色と鱗粉の色が違う。これだけでも十分過ぎる程に奇妙だが、それ以上に奇妙なのは、この蝶の存在を驚いている人間が自分しか居ないことだろう。
普通、こんなものが居れば大騒ぎになるのでは無いかと思う――いや、それは言い過ぎかも知れないが。少なくとも、百人居れば二、三十人は何かしらの反応を見せるだろう。それなのに、誰一人として上に目線を向けることもなく、俯いたままで立ち去って行く。その行動はこの蝶よりも興味深いものが下に存在しているかのようだが、見下ろせど下には地面しか無い。
見ていないのか、或いは気付いていないのか。この状態では、それすら判断することが出来ない。困惑している自分を尻目に、蝶はひらひらと真上を円状に飛び回っている。それは煽られているようで腹立たしくも感じたが、同時に不審さも感じた。
蝶がこんなにも規則的に、個人の上を飛ぶだろうか。それは普通、有り得ないことなのではないか。目を擦ってから改めて見ても、蝶はやはり真上でくるくると踊っている。
……見ていないのか、或いは気付いていないのか。その疑問の答えが後者であることに、奇妙な確信を覚えた。
目的があって、あの蝶は自分の上を飛んでいる。そしてその姿は、自分以外の他者には見えない。恐らく、そう考えるのが妥当だろう。
けれど嫌な予感がして、ふっと視線を地に落とした。
途端にすぅと蝶の気配が消失し――ぼや、と脳内で何かにノイズがかかる。
何を考えていたのか、それが奇妙に曖昧で。分からない陰鬱な気持ちのまま、時間は静かに過ぎていく。
……不思議ともう、上を向くことはできなかった。




