氷と熱
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――――その日は、奇妙に寒い一日だった。
夏なのに冬のよう、とまでは言わずとも秋の終わり程度には寒くて、ニュースも異常気象を告げている。八月の半ばの街を上着まで着込んで歩く人々は、変にちぐはぐで少し面白く思えた。
私自身もそんな風景の一部となり、物見遊山のような気持ちで街の中を歩いていた――と、その時不意に、妙な光景が目に入る。
街の隅、路地周辺の人目につきにくい所。そこに、ガラス片のようなものが散らばっている。
近付いて拾い上げてみると、それは薄い氷だった。しかしどうにも不思議なことに、溶ける様子が全く無い。
触れている手袋は乾いたままで、指先に湿った不快な感触が伝わってくることは無い。それどころか軽く指で弾いてみても、破片一つ欠け落ちなかった。
……この時、好奇心でそこに足を踏み入れなければ。そうだったならば、あんなことにはならなかっただろう――という後悔は、最早後の祭りだろう。或いは後悔先に立たず、か。
どちらであれ、事実は一つだ。
私はこの日、地獄に足を踏み入れた。ただ、それだけのことである。
路地の中は、外より妙に寒く感じた。外が秋の終わりなら、ここは冬半ば――そうとさえ思える程に。
歩くうち、足音がこつこつというものからぱきぱきというものに入れ替わる。それは足元に張った薄氷が、小さくひび割れる音だった。
これは割れるのか――などと余裕ある思考をしているのは、楽観と言うより現実逃避だったかも知れない。それ程までに、その環境は異常だった。
そうして深く踏み入った先、そこで私は目撃する。
真白な少女――比喩ではなく文字通り、雪像のように白い少女を。そして彼女を取り囲むように立つ、人型の氷の彫像を。
――――全身が、鋭く冷えたような気がした。それと同時に感じたのは、身の内側に溢れ出す炎にも似た強い熱。
美しかった。恐怖など、全く感じない程に。
思わず、手を伸ばしていた。不思議そうにそれを見つめている少女に、私はぼうと問い掛ける。
「君――名前は?」




