表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/200

氷と熱

投稿しました!

良ければ評価、感想よろしくお願いします!

 ――――その日は、奇妙に寒い一日だった。

 夏なのに冬のよう、とまでは言わずとも秋の終わり程度には寒くて、ニュースも異常気象を告げている。八月の半ばの街を上着まで着込んで歩く人々は、変にちぐはぐで少し面白く思えた。


 私自身もそんな風景の一部となり、物見遊山のような気持ちで街の中を歩いていた――と、その時不意に、妙な光景が目に入る。

 街の隅、路地周辺の人目につきにくい所。そこに、ガラス片のようなものが散らばっている。

 近付いて拾い上げてみると、それは薄い氷だった。しかしどうにも不思議なことに、溶ける様子が全く無い。

 触れている手袋は乾いたままで、指先に湿った不快な感触が伝わってくることは無い。それどころか軽く指で弾いてみても、破片一つ欠け落ちなかった。


 ……この時、好奇心でそこに足を踏み入れなければ。そうだったならば、あんなことにはならなかっただろう――という後悔は、最早後の祭りだろう。或いは後悔先に立たず、か。

 どちらであれ、事実は一つだ。

 私はこの日、地獄に足を踏み入れた。ただ、それだけのことである。


 路地の中は、外より妙に寒く感じた。外が秋の終わりなら、ここは冬半ば――そうとさえ思える程に。

 歩くうち、足音がこつこつというものからぱきぱきというものに入れ替わる。それは足元に張った薄氷が、小さくひび割れる音だった。

 これは割れるのか――などと余裕ある思考をしているのは、楽観と言うより現実逃避だったかも知れない。それ程までに、その環境は異常だった。


 そうして深く踏み入った先、そこで私は目撃する。

 真白な少女――比喩ではなく文字通り、雪像のように白い少女を。そして彼女を取り囲むように立つ、人型の氷の彫像を。


 ――――全身が、鋭く冷えたような気がした。それと同時に感じたのは、身の内側に溢れ出す炎にも似た強い熱。

 美しかった。恐怖など、全く感じない程に。

 思わず、手を伸ばしていた。不思議そうにそれを見つめている少女に、私はぼうと問い掛ける。


「君――名前は?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ