表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/200

狂炎が消えるまで

投稿しました!

良ければ評価、感想よろしくお願いします!

 五歳、家が燃えた。

 事故だと後に聞かされたが、具体的な原因は教えて貰えなかったからそれが真実かは知らない。

 この時両親が死んだが、状況を完全に理解することはできなかった。

 ただ、綺麗だなとは思った。


 十歳、初めて自分で火をつけた。

 理科の実験で、アルコールランプに火をつけるという陳腐で地味なものだったが、ちゃんと火をつけられた時は不思議な達成感を抱いた。

 ただ、然程綺麗だとは思わなかった。


 十五歳、初めて大きなものを燃やした。

 悪意があった訳ではない。寧ろ単なる善意のもので、落ちていた煙草を捨てようとしただけだった。

 そこに強い風が吹き、持っていた煙草が飛ばされ古い木造のバス停に触れ――残り火がそこに燃え移り、激しく炎上を始めた。

 酷く、美しく見えた。同時に、自分が異常なのだと知った。


 二十二歳、初めて自ら放火をした。

 抑えていたものが溢れた、とでも言おうか。元々持っていた――十五歳の時にそう気付いた欲求が、この時抑えきれなくなったのだ。

 古い民家だった。木造の家、年老いた天涯孤独の男が一人で住んでいた。

 彼の声が、炎の中で響いていた。炎の美しさと相まって、一つの芸術作品に思えた。


 三十歳、指名手配を受けた。

 下手を打った、としか言いようが無い。その美しさに取り憑かれ、自慰行為のように幾度も繰り返してきた放火を遂に嗅ぎつけられてしまったのだ。

 逃亡と隠滅の為、住んでいた家に火をつけた。

 不思議と、涙が溢れた。だが、感動では無かった。


 三十二歳、いよいよ追い詰められた。

 二年逃げ延びたが、どうやらここが限界らしい。路銀も底を尽き、完全に包囲されている。

 思い返せば、碌でも無い人生だった。人の幸福を奪う行為、それでしか幸福を得られない日々。

 楽しくは無かった――ただ、そうしなければ生きていられないだけだったように思う。

 もう、随分と火を見ていない。そろそろ、生きる活力も尽きてしまった。

 私は自分に火をつけた。立ち上る赤い炎と肉の焼ける臭い、自分の断末魔が広がっていく。

 ずっと、美しいと思っていたが――この時はただ、悍ましいとしか思えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ