狂炎が消えるまで
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五歳、家が燃えた。
事故だと後に聞かされたが、具体的な原因は教えて貰えなかったからそれが真実かは知らない。
この時両親が死んだが、状況を完全に理解することはできなかった。
ただ、綺麗だなとは思った。
十歳、初めて自分で火をつけた。
理科の実験で、アルコールランプに火をつけるという陳腐で地味なものだったが、ちゃんと火をつけられた時は不思議な達成感を抱いた。
ただ、然程綺麗だとは思わなかった。
十五歳、初めて大きなものを燃やした。
悪意があった訳ではない。寧ろ単なる善意のもので、落ちていた煙草を捨てようとしただけだった。
そこに強い風が吹き、持っていた煙草が飛ばされ古い木造のバス停に触れ――残り火がそこに燃え移り、激しく炎上を始めた。
酷く、美しく見えた。同時に、自分が異常なのだと知った。
二十二歳、初めて自ら放火をした。
抑えていたものが溢れた、とでも言おうか。元々持っていた――十五歳の時にそう気付いた欲求が、この時抑えきれなくなったのだ。
古い民家だった。木造の家、年老いた天涯孤独の男が一人で住んでいた。
彼の声が、炎の中で響いていた。炎の美しさと相まって、一つの芸術作品に思えた。
三十歳、指名手配を受けた。
下手を打った、としか言いようが無い。その美しさに取り憑かれ、自慰行為のように幾度も繰り返してきた放火を遂に嗅ぎつけられてしまったのだ。
逃亡と隠滅の為、住んでいた家に火をつけた。
不思議と、涙が溢れた。だが、感動では無かった。
三十二歳、いよいよ追い詰められた。
二年逃げ延びたが、どうやらここが限界らしい。路銀も底を尽き、完全に包囲されている。
思い返せば、碌でも無い人生だった。人の幸福を奪う行為、それでしか幸福を得られない日々。
楽しくは無かった――ただ、そうしなければ生きていられないだけだったように思う。
もう、随分と火を見ていない。そろそろ、生きる活力も尽きてしまった。
私は自分に火をつけた。立ち上る赤い炎と肉の焼ける臭い、自分の断末魔が広がっていく。
ずっと、美しいと思っていたが――この時はただ、悍ましいとしか思えなかった。




