死にたくない人
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今日が終わり、明日が来る。
それが、当たり前だと思っていた。ずっと、繰り返すものだと思っていた。
そうではない、と知ったのは十年前、難病とされる病を患った時のことだ。
あの時の感情は、それまで自分が感情だと思っていたものが模造品であるかのように思える程に鮮烈だった。
心臓が破裂寸前まで脈動を強め、その勢いに押されたかの如く肺が機能を停止する。音も、光も、匂いも温度も何もかもが遠くなり、消えていくように感じられた。
人は死ぬ――そう、理解した瞬間だった。
分かっていたつもりだった。生きとし生けるものはいずれ死ぬ、そういう存在としてこの世に生を受けたのだと。
だが、分かっていなかった。心の何処かで、自分は死なないという根拠の無い確信が渦巻いていたのだ。
真の意味で生死を理解した私は、奇跡的に助かった命を後悔無きように使うことを決めた。
刹那的に、願ったことを成す。無論、倫理の範疇ではあるが――とにかく、やりたいと思ったことのうちできることは全てやった。
突然明日が来なくなったとしても、一切後悔しないように。人は今にしか生きていないのだということを、深く胸に刻みながら。
そうして、好きに生きて十年が経ち――近日中、私の命は終わりを迎える。
十年前、最早助からぬと言われた難病――それが、奇跡の枯渇からか今になって再発したのだ。
それも、以前のものはまだ切除が可能だったが今回は転移が多く切除し切れないのだと言う。
それを聞き、私は医者に「そうですか」と落ち着いて答えた。
悔いは無い。死ぬ瞬間までの刹那を好きなように生きるのだから、死の瞬間に後悔などある筈も無い。
……だが、何故だろうか。
その瞬間に、後悔無きよう生きている筈なのに。胸の内には、死への恐怖が満ちている。公開すべき事柄など、無くせるものの筈なのに。
分からないままに、私はその時を迎えた。そして、その瞬間――漸く、理解することができたのだ。
私は、後悔したくなかったのでは無い。
――――ただ、死にたくなかっただけなのだと。




