禊ぐ境界【前編】
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――――もうすぐ、年が明ける。
私の住まうこの国には大掃除や除夜の鐘と呼ばれる文化があり、それらによって一年の汚れを払ってから新年を迎えると言う慣わしがあるのだと聞いた。
ならば私も、一つ汚れを払うとしよう――尤も、魂に強くこびり付いたそれが、払えるものかは知らないが。
これは、私の禊だ。私のどうしようも無く愚かで悪質な罪業を、自分が勝手に赦す為の懺悔。
暇があればで良い、良ければ聞いて行ってくれ。その方が、赦された気になれるから。
◇
……あの日のことは、今に至るまで忘れていない。
強い雨が降る日だった。予報されていなかったそれに皆が強く辟易し、苛立ちが街を染め上げた日。
私が彼を殺したのは、そんな夜のことだった。
理由は――正直、自分でさえも分からない。敢えて理由付けをするなら、それは使命感だったと思う。
殺さなければならない。この男を生かしておくべきではない。そんな思考が脳の皺一筋に至るまで全てを支配し、ある種の本能へと変化していた。
今でも覚えている。雨で流れていく血液の熱さも、雨音に掻き消される程微かなのに、白い服に溢した一滴の珈琲染みよりも鮮明だった彼の断末魔の声も。
……だが、不思議と。脳より深いところにへばり付いたその記憶が私を苦しめたことは、今日この日に至るまでただの一度も無い。今こうして語りながらも、私の心は凪のように穏やかだ。
「理由も分からず殺した」と言う愚か。「苦しむと言う責任すら取れない」と言う悪質。
それが――私の魂にへばり付き、未だ洗い流せていない最大の罪だ。
はっきり言って仕舞えば。
私は殺したことでは無く、そこに付随する愚かと悪質を自身の罪と呼んでいる。
故に、分からないのだ――この罪は、果たして払えるものなのかが。
これが己の性質なら、私はこの罪を払えない。
何故ならそれは自分という人間そのもので、死ぬまで付き合うべきものなのだから。
……そうでないと願って、私は過去を振り返ろう。
知りたい、赦される可能性があると思うならこの先の話も聞くと良い。だが、赦されないと思うなら――――
……ここで、終わりにしておき給え。
〈続く〉




