神は語らない
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死のうと思って訪れた森で見つけたのは、朽ちていつ崩れるとも知れないような教会だった。
床を軽く踏むと、ぶよぶよと嫌な感触がする。ほんの少し壁に体重をかけただけでぼろりと抜けて、尖った木片がさくりと皮膚を切り裂いた。
当然、管理する者も居ないその空間は不思議と肌に心地良く、安らぐような感じがする。
神など信じたことは無い――否、信じた上で救う神などいないと思っていたのだが、この場所にはそういう存在の空気が満ち満ちているように感じられた。
いつ抜けるかも分からない教会の床を歩いていくと、奥に小さな小屋らしきものを見つけた。
懺悔室……告解室?正式な名前など知らないが、確かそんなことをする部屋だったと思う。
中に入るとそこもやはり朽ちており、埃を被った椅子の真上に蜘蛛が巣を作っている。所々には何かが引っ掻いたか歯を研いだかしたような痕跡があり、微かに獣らしい糞便臭が漂っていた。
普段なら入るのを躊躇する光景だろうが、今の自分にはそれに怯える理由がない。何せもとより死にに来たのだ、人に死より恐れるものなどあるものか。
中に踏み込み、戸を閉める。狭苦しい密室空間は悪臭を差し引いても居心地が悪く、奇妙な圧力さえ感じてしまうが――不思議と、出たいとは思わなかった。
確か、神しか懺悔を聞かない部屋。居心地は悪いのに離れたくないこの異質な感覚が、見ている者の影響によるものなのだとしたら――それはそれで、何とも奇妙なものである。
そんな奇妙な空気に当てられた、とでも言うべきか。
特に何の考えも無く、無意識に。私はこのままあの世へ持っていくつもりだった罪を、思わず口から溢していた。
「……一緒に、死んでやりたかった」
心中する筈だった彼女。怖気付いて逃げ出して、結果彼女は一人で死んだ。
生き延びて、けれど生きる目的など無くて――結局、こうして遅れながら死のうとしている。
この上、死ねば彼女に会えると思っているのだからあまりに都合が良過ぎるだろう――そんな自分の女々しい懺悔を、神は無言で聞いていた。
神が返事をすることは無い。ただ、聞き届けて――
――――肯定も否定もすることなく、死にゆく私を見送った。




