微睡妄想
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視界が、ゆらゆらと揺れている。
夢――と言うよりは、目覚めた直後の茫漠に近い。
濡れた瞳に映る光は複雑に屈折して、揺らぐ度に万華鏡の如く幾度も変化を繰り返す。その形定まらぬ不安定な美しさが、私には何処か蠱惑的に感じられた。
……それに手が伸びたのは、完全な無意識である。
光の美しさに魅せられたが故か、或いは生命であるが故の欲求か。それは、自分でも分からない。
……けれど、何故か。そのどちらでも無いような、そんな奇妙な予感がしていた。
――ずっと、浮遊感に包まれている。
こちらはどちらかと言えば、夢の感覚に良く似ていた。接地している筈の身体には不思議な程安定感が無くて、まるで風に吹かれ空を舞う枯れ葉になったような気分である。
けれど、それに不快感は抱かない。寧ろ、少し心地良くさえ感じていた。
揺り籠に揺られる赤子、とでも言うのだろうか。薄い微睡の中で優しい揺れに抱かれるこの感覚は、最早覚えてなどいる筈もない当時の記憶を想起させた。
……屈折した淡い光と、幼子の眠る揺り籠のような心地良い浮遊感。目覚めと眠りの狭間――まさしく微睡のような感覚の中、私は甘い夢を見る。
穏やかで優しい母の笑顔と、仕事に出掛ける父の頼り甲斐ある大きな背中。見送った後は友人が迎えに来て、複数人で連れ立って学校へ向かう。
学校へ行けば優しく生徒一人一人と真摯に向き合う真っ直ぐな担任が出迎え、明るい空気の中授業を受ける。それが終わればまた友人と家に帰り、ゲームをしたり宿題をしたり共に過ごして、明日を約束して別れて……そして長く続くだろうそんな日々に思いを馳せながら、私は穏やかな眠りに就く。
そんな、甘く非現実的な夢が現実となることを祈りながら――私は、肺に残る最後の空気を吐き出した。




