聖夜を駆ける
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クリスマス・イヴの夜。それは一年に一度だけ、空を駆けられる夜だ。
この夜が、毎年の楽しみだった。美しい星海の中を駆ける感覚は地を駆けるよりも余程心地良くて、引いているソリの重さすら全くもって気にならない。
正直な話、プレゼントについてはどうでも良いと思っている。私には正直良い子と悪い子の区別など付かないし、そも渡すことに然程意味があるのかとさえ思う。
昔、一度「彼」に尋ねたことがある。
「何故、プレゼントを配るのか」
そう問いかけた時の彼の顔は、今も忘れることができない。
心底不思議そうな――考えたことも無かった、とでも言うかのような顔。「子供の喜ぶ顔が見られるから」などと言う善の塊のような言葉が返ってくることを私は予想していたので、その表情は心の底から意外だった。
「もしや、義務か何かなのか」
ならば別に、辞めてしまっても構わないのでは無いか――そう思って進言すると、彼はそれに笑顔で答えた。
「辞めはしない」
その答えは、今度こそ予想通りだった。
「儂が辞めたら、子供が悲しむ」などと言う、やはり善の塊のような返答。ならば何故先刻は即答しなかったのか、その問い掛けに対しての返答は至極単純なものだった。
「そんなことを、聞かれると思っていなかったから」
彼曰く、私も彼と同じ気持ちでプレゼントを配っていると思っていたらしい。私はその言葉に呆れ、本心を彼に暴露した。
私には、人の善悪など分からない。人が喜ぶことの何がそんなに嬉しいのかが分からない。何故なら私は人では無いから――その言葉に、彼は静かにこう返した。
「それでも良いさ」
……その言葉が、どんな意味を孕んでいたかは分からない。だが、恐らくは。私が彼を理解することを諦めたのと同じように、彼も私を理解することを諦めたのだろうとは思う。
――――今年も、クリスマス・イヴの夜を駆ける。
彼とは違う景色を見て、彼とは違う願いを持って――この、美しい星の海を。




