遥か太古の知性より
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――――願わくば、この手記が。
この世界を覚えている、誰かに届きますように。
◇
もう、何日経ったか分からなくなった。
人の声は聞こえない。しんと静まり返っていて、なのに奇妙な程騒がしく思えるのは変に感覚が研ぎ澄まされているせいだろうか。
静寂は人を狂わせる。或いは暗黒、或いは異臭、或いは寒暖、或いは甘苦――五感それぞれに、人を狂わす何かがある。そう思えば、五感は初めから人を狂わすように出来ているのやも知れない。
突然こんなことを書き始めたのは、現在の私が突然そんなことを考える程に狂っているのだと言う証拠だ。
これを読んでいる者の時代から、幾年昔かは分からない。だが、古代と呼ぶ程度の時間が経っているであることは恐らく確かだろうと思う。
今これを読んでいる者が、何者なのかは知らないが。少なくとも、自らを「ヒト」とは名乗っていないだろう。
分からなかった時の為に説明しておくが、ヒトとは君達の前にこの星を支配した生命体である。弱いが知性に長け、それによって支配者に上り詰めたものだ。
……だが、不相応というものであったらしい。
支配者たるには、人はあまりにも弱くて。そして、あまりにも賢かった。
弱いものは恐れが強い。仲間内にすら怯え、互いを信ずることがなかった。そしてヒトには、そんな信用ならぬ「弱いもの」を容易く殺す知恵があったのだ。
故に滅びた。殺し合い、死に合った。
恐らくは、私が最後の一匹である。故にこそ、ここに歴史の記録を遺そう。
――――次に、この星を統べる者達よ。貴君らは、我々よりも無知であれ。我々よりも強くあれ。そうすれば、争うこともないであろう――――
◇
ぱた、と手記を閉じ、俺は静かに溜め息を吐いた。
流石、と言うべきか。この手記を書いた者の言葉は、概ね正解と言って良い。「賢い生き物」を自称するだけのことはある。
……ただ、一点だけを除いては。
ヒトで無くとも、無知で強くとも。霊長の頂点に君臨した者は、必然的に争うのだ。
何故なら、どんな生物も。最も知らねばならぬもの――他者の心を知る機能を、持ち合わせてはいないのだから。




