私を忘れて
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ふと、目が覚めた。
辺りは既に真っ暗で、街は風さえ眠ったようにしんと静まり返っている。それは在り方として酷く寂しい姿だったが、不思議と心地良くも思えるのは私がそれに馴染んだ存在であるが故か。
「私」が死んでから、もう随分と時が経つ。
それなりにセンシティブな事件だったから、直後はかなり取り沙汰されたものだが――今は多分、誰も覚えていないだろう。その証拠のように、私の死を悼んで供えられた花は最早私より死んでいる。
……まぁ、それは別に良いのだが。取り敢えず、私がこうしてこの世に留まっているのは別に恨みや未練からでは無いのだ、と言っておこう。
ならば何故、と問われればただの気紛れである。
何となく、成仏することに気乗りしなかった。死を恐れている訳では無いが、本当に何となく成仏に気乗りしなかったのだ。
まぁ当然、あの世の遣いとやらには烈火の如く怒られたが――何だかんだと暫く待ってくれている辺り、割と柔軟なものである。偏見だが、そう言う存在は皆頭でっかちなのかと思っていた。
……まぁ、そんな天使らしさの話はさておき。私はと言えば、普通に死に方を考えていた。
折角成仏するなら、少しは格好をつけたいものだ。だがしかし、死んでいる身でどう格好つけろと言うのかもいまいち謎である。
ならば他の手段を――そう考えたが、死に様などそう思い付くものでも無く。結局私は自分の死に様を決められぬまま、タイムリミットを迎えてしまった。
まぁ、成仏保留の限度である。
死の間際、天使に聞かれた。
「死ぬ前に、何か願い事はあるか?」
何でも、死ぬ前にある程度の願いを叶えてくれるらしい。それを聞いた私は迷わず、天使に願いを持ち掛けた。
「――――私を知る人間が、私を忘れますように」
それが私の、思い付く限り最大の格好付け方だった。




