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 ある休日。特段やることも無く呆然と時計を眺めていると、不意に針が動きを止めた。

 恐らくは、電池が切れてしまったのだろう――普通に考えれば分かる筈のごく平凡な現象だが、この時独りで部屋にいた所為か別の感覚を抱いてしまう。


 ――――まるで、時間が止まったみたいだ。


 無論、そんなことは全くない。ただ、孤独な部屋の静寂がそう感じられたと言うだけのこと。

 けれど――不思議と、私の胸は高揚した。


 今この瞬間、この場所だけは時間が完全に止まっている。幼い頃によくやった「横断歩道の白い部分以外を踏んだら奈落に落ちる」みたいな妄想遊びを、なんとなく頭の中で展開した。

 ……別段、時が止まったからと言ってやりたいことがあったりする訳ではないのだが。誰しも思い付くものは幾つかあるだろうが、そこまで下卑た人間ではない。


 なら、何をするか――考えて私が選んだのは、長らく放置していた本を開くことだった。

 私は自分を気分屋であると認識している。それ故に、気が向かなければできないことというのも多い。


 その中の一つが、読書だ。

 読むのは好きだし良く買うのだが、買ったからと言って気が向かず読まずに放置することがしょっちゅうだ。

 無限に時間があるなら、そういうものでも消化するとしようか――それが、本を選んだ理由である。


 そうして選んだ本は、何の因果か時が止まった世界を描く話だった。

 最初は喜び、下卑た行為を好き放題に行う主人公――しかしそのうち退屈になり、けれど待てども時は動くことがない。時が進まないから歳も取れず、病にも罹れずただ生き続けることしかできない。

 こうして孤独に永遠を生きることになった主人公が、救いを求めて世界を旅する――という内容のものだ。


 読んでいて、無性に怖くなった。

 もし、自分の居る世界も同じだったら――と。


 けれど、そうはならなかった。

 外から車の音がして、部屋の時間が動き出す。

 私はそのことに、ほんの少し安堵しながら――ぱたりと本を閉じ、また止まってしまう前に時間を進めることにした。

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