風の中を舞う
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ひゅうと風が吹いて、真横を一羽の鳩が通り抜けた。
飛び立つその様は力強く、けれど何処か弱々しい。そう思えてしまうのは、重力に抗う強さと風にさえ安定を崩される脆さが頭の中で一致しない所為だろうか。
恐らくは、矛盾という概念だろう。全てを貫く矛と、全てを防ぐ盾――ぶつかり合えば何方が勝つのか、という故事に端を発する古い諺。
強さと、弱さ。それは矛盾の関係にあるのだと思っていたが、飛んで行く鳩の姿には両立し得ない筈のそれが同時に存在している――そのことが、頭の中に混乱を招いていたのだと思う。
何とも、奇妙な話だ――そう考えながら鳩を目で追いかけていると、不意に黒い影が視界の端に出現した。
何事かと視線をずらす。けれど、そこにはもう黒い影の姿は無い。そして、その代わりとでも言うように真反対で影が動いた。
合わせて目線を動かして――そこで、漸く影の正体が何者であったのかを理解する。
それは、巨大な一羽の鷹だった。風も、重力もものともしないように鳩の周囲を舞い……そして、一瞬で鳩を叩き落とす。
落ちた鳩と鷹はビルの屋上に着地したらしく、視界の中からは消えてしまった。けれど私は何となく、見えもしない二羽の姿を空の向こうに見据え続ける。
鷹と、鳩――一体、あの二羽で何が違ったのだろう。
飛翔の機構は同じだと思う。違うとしても、然程大きなものではないだろう。
けれど、鳩は力強くも弱々しくもあり。
鷹は、ただひたすらに力強かった。
重さや大きさ――というものは無いわけでも無いだろうが、飛翔という重力に逆らうものに対してそれは寧ろデメリットにしかなり得ない筈だ。
しかしそれでも尚、鷹は力強い捕食者で。鳩はどこまでも中途半端な被食者だった。
……答えは何も分からない。神のみぞ知る――或いは神も、彼ら自身ですら知らないことでは無いだろうか。
呆然と空を見上げる。飛び立つ翼は、もう見えない。
ただ、弱々しい風だけが――私の真横を、ひゅうと通り抜けて行くばかりだった。




