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足音の証明

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 午前零時。帰宅した私を出迎えたマンションのエントランスホールは、しんと静まり返っていた。

 かつーん、かつーんと靴が妙に甲高い音を立てる。恐らくは寝ようと目を閉じた時、枕元の目覚まし時計が立てるチクタクという音が矢鱈気になる感覚と同じようなものだろうか。


 静寂と言うのは不思議だ。ある者には心を穏やかにするものでもあり、また別の者にとっては逆に不安を掻き立てるものでもあるのだから。

 私にとってのそれは、違うことなく後者である。閉所恐怖症や高所恐怖症と似たようなもの、と言えば想像するのは容易いだろう。


 幼い頃から、静寂が苦手だ。

 原因――と呼べるものは、特になかったように思う。ただ生まれついて、それを感じた時に抱く不安が常人よりも強かった。

 

 音が消えると、他の感覚も消えて無くなるような気がした。それはほんの刹那だが、私には永遠にも似た時間のように感じられた。

 親から聞いた話だが、赤子の私はほんの数秒しんと音が消えるだけでも酷く泣き喚いていたらしい。そしてあやす為に声を出すと泣き止んで、安心して離れて音が消えるとまた泣いた――と。


 無論、そんな記憶は無いが。ただ、現状の感覚を思えば無い話では無いと思う。

 静寂は恐ろしい。何がと言うわけではなく、ただ概念として感じたくないものといった感覚だ。多分、五感の一つが消えることが死の感覚に近いからだろう。


 恐らく、足音や時計の音が気になるのは人が本能的にそれを感じているからではないか――私は、自分の中で勝手にそう結論付けている。


 ……かつーん、かつーん。


 歩く度に、靴音が煩いぐらいに反響する。

 私は矢鱈意識を削ぐそれに僅かな苛立ちを感じながら――しかし、同時に安堵も覚えていた。

 少なくとも、この音が鳴っている限り静寂ではない。

 静寂でないなら――「生きている」と、信じていても問題はないだろうから。

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