掃き溜め
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仕事の帰り、何と無しに脇道を選んだ。
いつも通りでは見られないもの、日常からの離脱。気分が良いと、普段忌避しがちなそういうものを体験したくなるのが私という人間の性質である。今回の行動も、そういった性質故の些細な気紛れのようなものだ。
この日は、普段のそれより高揚していた。
仕事で成果を上げ、上司から称賛の言葉を貰い、同僚達にも称賛された――そんな、頻繁に起きることのない幸福故の上機嫌である。
だから、だろうか。私は普段なら上機嫌でも前を通ることさえ避ける、ある裏路地に足を踏み入れた。
この裏路地は、町民達には「掃き溜め」と呼ばれ忌避されている。それがどれほどかと言えば、不良と呼ばれる人種でさえその路地には近付こうとしない程だ。
そこが「何の掃き溜め」であるのかは、まともに語っている人間を見たことが無い。まぁ、誰も近付かないのだからそれも当たり前のことではあるが。
ただ「近付いてはならない」と、無意識のうちに避けている。そういう意味で言うのならば、所謂「心霊スポット」に近いのかも知れない。
幼い頃、一度だけ入ったことがある。
当時はまだ恐怖などと言う感情とは無縁で、好奇心だけで踏み込んだのだが――迷子になり、親も探しに来ないから酷く不安になったものだ。
その時は、特に何も見なかったように思う。ただ、何とか自力で脱出した後の両親は妙によそよそしくなったように感じていた。
今思えば、二人は「怯えていた」ように思う。威嚇するドーベルマンに触れようとした時のような「怯え」が、あの頃の両親にはあった。
そんな過去を思い出しながら歩いたが、特に何も見つからず。気付いた時には入り組んだ道を通り抜け、反対側の通りに出ていた。
あれだけ怯えられて、結局何があるでもない――そんなことに違和感を覚えながら、私は家路を歩いて行く。
……そう、何も無かった。掃き溜めと呼ばれた筈の場所には――もう、何も。




