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掃除

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 から、から、から、から。


 何処か楽しげな音を立てて、空缶が地面を転がった。

 少年はそれを踏み潰し、手近な塵箱に放り込む。


 少年は、ある種の潔癖症であった。

 地に落ちたもの、他者が触れたものに触れることに対しては嫌悪感を抱かない。どころか彼は、泥に塗れることすら微塵も嫌わなかった。


 そんな彼がどうしても許容できない汚れ――それは、世界そのものの汚れである。

 海に浮かぶビニールを見ると、汚泥を胃に流し込まれたような吐き気を感じた。眼前で空缶を地に投げ捨てられると、糞尿を全身に擦り付けられているような気持ち悪さが全身を駆け巡った。


 その感覚が、嫌で嫌で仕方が無く――ある日青年は、とうとう目の前で空缶を投げ捨てた男に抗議した。

 けれど男はそれを鬱陶しがり、反省するどころか青年に怒りを向け始める。


 男は青年を殴り、揉み合いになり――青年は咄嗟の反抗として、男を壁に叩き付けた。


「かっ」


 そんな声を最後に、男は地面に崩れ落ちる。

 どうやら、打ち所が良くなかったらしい。青年が我に返った時、男は既に事切れていた。


 やってしまった――そんな罪悪感が胸に浮かぶ。けれど直後、青年はふと気が付いた。

 

 ――――この男はもう、塵を捨てない。


 塵を地面に投げ捨てるような屑が一人消えた。それはつまり、自分の苦しみが一つ減ったと言うことだ。


 ――――から、から、から、から。


 青年は笑った。甲高く、そして奇妙な声で。

 罪悪感は、爽快感に切り替わっていた。それを理解した青年は、一つのことを決断する。


(必要なのは――塵掃除だ)


 青年は、塵の掃除をし始めた。血に塗れることも嫌悪しない彼にとっては、何の抵抗もないことである。


 今日も、彼は掃除を続ける。

 世界を清浄なものに変えるまで、永遠に。

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