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生きて死ぬもの

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 ある夕刻、青年は空へ飛び込んだ。

 ひゅう、と冷たい風が切り裂くかの如く肌の横を通り抜ける。浮遊する空は紅色に染まり、その光景は自分が辿る末路を示唆しているかのようにも思えた。


 死を前にしながら、青年の心は穏やかであった。

 恐怖の感情は微塵もない。現在の感情に敢えて名をつけるのであれば、それは恐らく「安堵」だろう。


 思えば、随分と無駄な時間を過ごしたものだ。

 これまで生きた十九年を振り返れば、意味を感じられるような映像など一つも存在していない。それは「意味」と言うだけに、他者から見てのものではあるが。


 生まれてすぐ、両親は青年にこう告げた。


「お前なんか、要らない」


 彼らがそう言った理由を青年は知らない。彼はただ、本来忘れ去る筈のそれを言語として理解できるまで記憶し続けていただけである。


 その言葉通り、青年は蔑ろにされながら過ごした。

 食事は与えられなかったので、一度寝たら起きない母の胸を勝手に吸って栄養を得た。


 飯を与えてもいないのに生き残る彼を両親は不気味がり、とうとう施設の前に捨てた。

 施設の者達は彼を懸命に生かしたが、生かされた彼が彼女らに得をもたらしたかと言えばそれは否である。


 彼は何もせず、ただ生きた。恐らくは、幼少の経験から生存以外への興味が著しく低下していたせいだろう。

 生物らしい意志を持たず、ただ生きる為だけに行動する彼を彼女らもいよいよ不気味がり、呼び出した彼にこう告げた。


「出て行って欲しい」


 青年は放逐され、小さな部屋を与えられた。

 寒空に投げ出して終わらなかったのは、彼女らが彼に向ける最後の慈悲であろう。けれど彼はやはり、生きること以外に何の興味も無かった。


 彼は飯を求めたが、金を得ようとはしなかった。

 金は、生きる為に必要ではない。そんなものが無くとも、糧はそこら中に転がっている――それが、彼の到達した結論である。


 生きる為、彼は奪い始めた。

 周囲を歩く餌を食らい、適当な巣穴を襲っては住んでいたものを餌に、棲家を自分のねぐらとした。


 彼は、生きる以外を目的とできなかった。故に、与えられぬのなら奪うことしかできなかった。


 そんな彼は、自ら生を投げ捨てた。

 飽きたか、或いは疲れたか――理由は最早、彼自身にも理解できない。

 しかし、彼は一つだけ確信していた。


 ――――自分はきっと、こうなる為に生まれて来たのだ――――

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