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思い出、忘れて

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 少し冷え込みが強くなり始めた秋暮の日、私は古い記憶を頼りにとある山の神社を訪れた。


「これは……酷い」


 思わず、そんな言葉が口から漏れた。

 記憶の中ではもう少し綺麗だったように思うが、今はもはや見る影もない。忘れ去られ、朽ち果てたその有り様はまるで森の断片に変じてしまったかのようだ。


(これでは――もう)


 遠路遥々やって来た理由を見失い、心折れそうな気分になる。その時、不意に何処からか声が響いた。


「お前、随分と老けたな」


 周囲を見渡すと、朽ちた本殿から誰かがこちらを見ていることに気が付いた。その姿を見て、私は胸を撫で下ろす。


「お久し振りです。ご健勝でしたか?」

「この様を見て、良くその台詞が吐けたものだな。見ての通り、随分と弱ってしまったよ」


 そう言いながら顔を出した相手の姿は、記憶より随分と小さくなったように思えた。私は思わず俯いて、そっと彼から目を逸らす。


「……すみません」

「何を謝る?発言の無神経さなら、お前は元々そうだったから俺は何も気にしていない。それに、今まで現れなかった理由も俺は知っている。だから、別に気を病む必要など何処にもないぞ」

「でも――私が」


 言おうとして、ふと気が付いた。

 彼が、苦しげな表情を浮かべていることに。


「……お前一人など、何の足しにもなりはしない。こうなった責があるとすれば、人心を繋ぎ止めておけなかった俺の不甲斐なさだろう」

「……もしや、もう」

「察しの通りだ。お前が来て、ほんの数秒伸びはしたが――もう、限界が来ている」

「そんな……!」

「嘆くな、悔やむな。言っておくが、俺は存外嬉しいのだぞ?

 最期の時に、お前と会えた。煩いばかりのガキンチョが、立派に大人になってくれた……その姿を最期に見られたというだけで、俺は満足できたのだ――――」


 彼は、すうと姿を消した。

 後には何も残らない。しんと静まり返った森と、その断片が残るだけ。神社など、ここには最早存在しない。


「……………………」


 私は無言で一礼し、早足でその場を後にした。

 確かにあった、その筈の記憶は――いつの間にか原型を忘れ去り、ただの曖昧な何かへと成り果てていた。

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