ただ深く
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――――ある夜、不思議な夢を見た。
ただ、落ちていくだけの夢。何処へ落ちているのか、何を落ちているのかも一切分からないままに。
そこには感覚なんて全く無くて、ただ「落ちている」という事実だけが自己すら曖昧な意識の中で鮮明に形を保っている。
辿り着く底は何処にもない。ずっとずっと長い時間、曖昧が空白に変化しても尚「落ちている」事実だけが意識とすら呼べないものの中で鮮明に残留し続けていた。
◇
前触れも無く目が覚めた。
緩慢な動作で引き起こした身体は、奇妙に現実感がない。接地している筈の足が、未だ落ち続けているかのように矢鱈重たく感じられた。
「なんだろう、これ」
もう一つ、奇妙なことがあった。
虚空に、不思議な虚が見える。それは黒にも見えて白でもあり、けれど明確な色など存在しないようにも思える。敢えて強引に表現するのであれば、永劫に続く透明と言ったところだろうか。
思わず手を伸ばして、それを咄嗟に引っ込める。
なんとなく、直接触れてはいけないもののような気がした。代わりに手近にあったペンをそこに挿し入れてみると、不意に脳内で何かが変わる。
ふと、ペンを挿し込んでいないことに気が付いた。
挿し込んでみる――また、脳内で何かが変化する。
……挿し込んでいない。そう気付いた時、ぞわりとした。
認識が、変化している――それが元々、その形のものであったと。先端など元々無かった、という風に。
瞬間、唐突に理解した。
これは――「無」だ。いや、それよりももっと異質なもの。恐らくは、ヒトでは本来概念として認識し、名を付けることすら叶わないナニカ。
周囲を見渡せば、そんなものが無数に周囲を漂っている。世界の不完全を示すそれに、僕は声も無く発狂した。
……ほんの僅か、最後に残った人間性が捉えたのは。
虚の中で妖しく笑う、僕自身の顔だった――――




