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懐かしんで、それだけで

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 ふと目を覚ますと、見知らぬ風景が視界の端を流れていた。

 どうやら、随分と乗り過ごしてしまったらしい。不意に震えた携帯を見ると、数十回の着信履歴が画面に表示されていた。


 私は次の駅で降り、そのまま改札を出ることにした。

 特段、理由があった訳ではない。まぁ、疲れていたから――と、いうことにでもしておこう。


 そこは、平凡な町だった。

 ドラマに出てくるような海辺の漁村や田舎町では決して無い、何処にでもありそうな今時の町。強いて特徴を挙げるなら、やけにマンションなどの集合住宅や小中学校が多い点ぐらいだろうか。


 ここはどうやら、新興住宅地であるらしい。その所為か現代日本では珍しく思える程に、歩く中で擦れ違う子供の数が多いように感じられた。


(綺麗な目だ――私にも、あんな日があったか)


 ふと、郷愁に浸る。

 夢や希望を持った瞳――彼らと同じ歳の頃は、恐らく私も彼らと全く同じ目をしていた。

 そう思って、ふと通り過ぎた窓に映る自分を見る。  


(……濁って、いるなぁ)


 それは、確かな「大人」の証。「未来など、別段美しいものではない」という、現実を識った大人の目だ。

 そうなったことを後悔はしない。けれど、思い返すと少し寂しくはなった。


 人は、過去を「懐かしむ」ことしかできない。一度過ぎ去った時間、失ったものは二度と戻りはしないのだ。

 同じもののように見えても、それは似ているだけの違うもの。きっと私がまた未来に希望を持つようになったとして、それは彼らとは全く違うものだろう。


 故に私は懐かしみ、ほんの少し寂しくなって――それだけをしてから、携帯電話を操作した。


「……お疲れ様です、部長。申し訳ございません、電車の中で眠ってしまい――――」


 耳から胸へ届く痛みが、電話の向こうから声という形で発される。

 私は、幾度も頭を下げながら――その痛みを、粛々と静かに受け入れた。


 無様でも、情けなくても……それが「大人」だと、既に識っている者として。

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