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結末のない物語

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 ……さて、どうしたものだろうか。

 「事実は小説より奇なり」という言葉を体現したような人生を送ってきた自信はあるが、存外とそれを物語に変換するのは難しい。


 まぁ、誕生から描いてみるとしよう。

 『……私の誕生は、平凡とはかけ離れていた。

 朝日と共にこの世に現れ、その瞬間を祝福するように村の動物全てが一斉に鳴いたと言う。その中には、老いて眠ることしかしなかった馬さえ居たそうだ』


 村民からの伝聞ではあるが、このようなことがあったらしい。正直眉唾物ではあるが、その後を考えれば無い話とも言い切れないだろう。


 ……さておき、次は旅立ちだ。

 『十六歳の冬、私は村を出ることにした。

 村が嫌いだった訳ではない。ただ、外への好奇心を抑えることができなかった為である。

 快く送り出してくれた仲間達に別れを告げ、私は私の生きてきた矮小な世界を飛び出した。

 未知に溢れた異世界で繰り広げる、波瀾万丈な旅路を思い描きながら――――』


 これまでの人生、あの時程高揚したことは無い。

 今になってさえ思い返し、胸を高鳴らせる程に。


 ……さて、次は「彼女」のことを書こうか。

 『旅の最中、些細な偶然から私はある冒険者の女性と旅路を共にすることとなった。

 彼女の纏う空気感は矢鱈に高潔で、初対面の際には冒険者と言うよりは騎士のように感じられたものである。

 何故、そのような空気を纏うのか――それを知ったのは、ある老人と出会った時だ。

 老人曰く、彼女は「亡国の第二王女」だったらしい。

 その事実に納得すると同時に、私は複雑な感情を抱えることとなった――――』


 あの時は驚いた――が、それ以上に悲しくなった。

 秘密を明かせない程、彼女に信用されていなかったのだと感じて。


 それから……いや、ここで終わりにしよう。

 彼女と私の結末は――きっと、残すべきではないものだ。

 何故なら私は、彼女の心を何も知らない。だと言うのに、私一人の視点であの結末を描くことは彼女の選択を冒涜することと同じだろう。


 これからこの物語を読む者と、執筆を依頼してきた彼には心から申し訳ないと思う。しかしそれでも、私はあの最後を書き残さないことにした。

 

 ――――さて、そろそろ。


「私も、君に会いに行くとするよ――――」


 かたり、と筆が床に落ちる。

 その音と共に――私は、深い眠りについた。

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