表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/200

パラドックス

投稿しました!

良ければ評価、感想よろしくお願いします!

 もう、随分前の話になる。

 私がまだ社会に出て間も無い頃、私の息子を名乗る青年が私の前に現れた。

 私は当然呆れたが、青年が私しか知らぬ筈の過去を口にしたことで信じざるを得なくなった。


 ならば何をしに来たのか、そう問いかけると青年は複雑そうな表情を浮かべる。その姿はなんとなく、言うべきか悩んでいるように見えた。

 少しの間を空けて、青年は意を決したように言う。


「一度だけ、父親に会ってみたかった」


 彼曰く、彼の生きる時代に私はもう居ないらしい。死因は不明だが、間違いなく死んでいるそうだ。

 その死は、彼がまだ物心つく前だった。故に彼は父を知らず、時を超える手段が開発された際に一度だけ会ってみたいと思った……と言うのが、今回の件の理由であるらしい。


 伝えるか悩んだのは、私が死ぬことを回避させられるか分からなかったかららしい。歴史を変えてはならないから、などかと思っていたが……その辺りは、まだ法が整備されていないそうだ。


 聞けば、私が死ぬのは十年後だと言う。五年後に私は妻となる女性と出会い三年の交際を経て結婚、およそ一年後に妻が彼を妊娠し――翌年、彼が誕生して間も無く死に至る。それが、私の運命なのだと言う。


 それが分かっていながら十年後の私に会いに行かなかったのは、まだ時間移動が不安定で個人を座標に指定する必要があり、けれどその人間の「いつ」に飛ぶかは不明だからだと彼は告げた。


 ……そんな話をしていると、不意に彼の像が揺らぎ始める。どうやら、過去に滞在できる時間の限界が来たらしい。


「十年後、気を付けて」


 そう言い残し、彼は消えた。私は困惑しながらも、その言葉を深く胸に刻み込んだ。


       ◇


 ……そして、十年。

 私は今、これから死ぬ。


「……すまない、だが未来の為に――」


「――――死んでくれ、父さん」


 青年はそう言って、泣きながら私に刃を突き立てた。

 崩れ落ちる最中、私が感じていたのは恐れでは無く、けれど悲しみでも無い――とても不思議な、形容し難い感情だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ